その日お客様も女の子達も皆青ざめていた。
かく言う私は輪をかけて真っ青だった。
ち、血迷っちゃったかも………
マジで言ってんすか!!?
どうしてよりによって
鶴ヶ峰に2号店出すんですか!?
いや、その。特に理由はないんだけど
ちょっと物件選びに焦ったと申しますかなんと言うか。
そんなんで決めて大丈夫なんですか!?絶対南林間とかの方が良いですよー!
うん。試しに審査通したらなんかすんなり通っちゃって
小田急沿線中々物件上がってこないしもう鶴ヶ峰で良いかなと。へへへ。
うわぁーー!!!鶴ヶ峰はないっすわーー!!!
あり得ないっすわーー!
まぁまぁ、もう契約しちゃったから後はやるしかないね………。
溯ること今から数ヵ月前
地の底から蒸したような真夏日の炎天下の中、噴き出す汗を拭いながら仲介業者の斎藤さんと待ち合わせをした。
どうも初めまして!今回の物件はこちらのオリジンさんの2階になります!
またしても2階かぁ~酒呑みに2階はキツイんだよな
しかもTOBARIの倍以上の広さ。
とは言えあんまり広さの想像つかないんで早速中拝見させて頂きますね。
ガチャ
ぎゃぁぁぁぁっ!!!広い!広すぎるぅぅ!!
キャバクラ営業出来ますやん!!
ダンスパーティー出来ますやん!!
斎藤さん、この箱、製氷機とかの備品全部ひっくるめたら大体いくら位かかると思いますか??
まぁざっと1本ってとこじゃないですか?
そんな笑顔で言わないでくださいよ
このご時世にスナック開業にそこまでかける奴いるんですかね?
しかもトイレ外じゃないですかっ!!
店舗内に作ることも可能ですよ
ただトイレ1つ作るのに大体100万はかかります
マジかよ
でもまぁ広い分にはどうとでもなりますから
額の汗を拭いながら朗らかな彼は終始ニコニコと続けた。
息苦しいサウナ室のような暑さで頭がいかれたのか、斎藤さんの言ったどうとでもなるという不思議な力の言葉に上手いこと乗せられ契約に至ってしまったのだった……。
その日の夜、鶴ヶ峰で唯一のキャバクラ『ディオネ』に飲みに行った。
ディオネの店長の小野さんは昔私が横浜で勤めていた時に、店長さんだった方だ。
横浜時代に一緒に働いていた子や、懐かしい顔触れの女の子達も数名おり、しばし楽しい一時を過ごした。
俺はあんだけ辞めとけって言ったのに~、本当に契約しちゃったんだ~
鶴ヶ峰は本当に難しいぞ~
やっぱやっちまいましたかね?
でもやるからには頑張ります!!
小野さんこそ私という良い味方が出来て良かったじゃないですか!
一緒に盛り上げて行きましょう
と固い握手を交わし店を後にした。
さてさてこの後はこの広い箱をどうやっつけようか…………
次に続く