❇︎わたしは原作は未読です。
映画「廃市」のネタバレがありますので、ご注意ください!

映画 「廃市」

監督 大林宣彦
脚本 内藤誠  桂千穂
原作 福永武彦

出演者 
貝原安子  小林聡美
江口    山下規介(新人)
貝原郁代  根岸季衣
貝原直之  峰岸徹
秀     入江若葉
三郎    尾美としのり

カメ クローバー カエル

こぼこぼこぼ……駅のホームに降り立つと、どこからか水が流れる音が聞こえてくるような、とっても静かな美しい水の都が舞台です。

遠い東京からやってきた江口は、二つの川とその間にあるいく筋もの運河がある、のどかなその町が気に入ります。

江口は、論文を書くために、親戚の紹介でその町のある旧家へ滞在することにしたのです。

出迎えてくれた旧家の娘・安子は、笑い声も快活な、とっても明るいひとでした。笑い声のなんと明るいこと!
静かな旧家が華やぎます。
しかし、なにかがありそう…
江口は好奇心をくすぐられたに違いありません。

着いたその日の夜遅く、階下からは女のひとの泣き声が、川を流れる水の音とともに聞こえてきました…
いったい誰が泣いているの?
江口はずっと気にしてしまうのでした。

そして、着いた早々、江口の懐中時計が止まってしまう…
この都に閉じ込められ、時が止まってしまったかのような閉塞感が漂います。

江口は、徐々に、その旧家のひとびとの複雑な事情を知ることとなります。

その旧家の事情とは…
江口の来る少し前のこと、
その旧家の仲の良い姉・郁代と妹・安子が、同じひと・直之を好きになってしまい、直之は郁代を愛しているからと、郁代と結婚したのですが、郁代は、直之は本当は安子が好きなんだ、と思いこんで、安子のためにと、郁代は家を出て寺へ身を寄せてしまっていたのです。
自分の郁代への愛をわかってもらえず、直之も家を出てしまい、ほかの女性、秀のもとで暮らしていました。
そして、残された安子は、20歳くらいの若さで、年老いた祖母の代わりに旧家を懸命に切り盛りしていたのでした。

各々の事情と感情が打開を許さない、という現状は、観ていて窒息しそうでした。

明るい安子ですが、素敵な町だね、と言う江口に、川の音はこの町が死んでいく音なのよ、と言うのです。そして、ちっぽけな町に縛られて自分たちも死んでいる、と。
川はとうとうと流れている。
死んでなどいない。
若くほがらかな安子が言う、死、は、まるで、夢、と同じだ。わたしは、そう感じました。
江口もそう感じていたのではないでしょうか。

この水の都では、船上でのお祭りがありました。
みな各々綺麗な提灯を並べた小舟に乗り、舞台での催し物を舟に乗って観るのです。
舟の上、なんて、趣があります。

そして、直之は、あろうことか、事情を知っているだろう町のひとびとや安子たちの前で、秀とともに歌舞伎を演じました。

よくもまあ、そんなことができるなぁ…
江口も呆れていたようです。

安子も、半ば諦めムードで、直之の歌舞伎を誉めたりするのです。このひとたち、大丈夫なのかしら?と思ってしまいました。

楽しげな祭囃子を聞きながら、江口は、歌舞伎の化粧を落とす直之に訊ねます。
なぜ郁代を連れ戻さないのか?気の毒ではないか?
すると、直之は、とうとうと自分の身の上を語ります。

愛しているのに、郁代はわかってくれない。
貝原家のひとは気位が高すぎる。
いま暮らしている秀は、母親のように優しくくつろげる。

などなど…モテ自慢でしょうか?
直之というひとは、この町は死んだような町だ、と言いながら、女性に好かれる自分に酔って、満足しているように見えました。
それとも…本当にわからないのかしら?
自分が本当はだれを好きなのか?

祭りの夜、江口は知りました。
安子が直之を好きで、郁代は、直之も安子を好きなのだと思っていることを。

安子に好意を感じていたらしい江口に衝撃をあたえたのではないか?
江口の気持ちは封じられてしまうのか…

しかし、ひと月ほどのあと…

なんの真似でしょうか?
直之は、秀と睡眠薬で自殺してしまいます。

いったい、どこに死ぬ理由があるんだろう?

江口の疑問は、そのままわたしと同じです。

もしも出口がないと思い込んだら?見つけることができないかもしれません…若いということは、思い込みも激しいということなのでしょうか?

いや、もしも死ぬほど愛していたら、直之だってどんなことをしても郁代にわかってもらおうとするんじゃないでしょうか?
やはり、直之は安子が好きだったのではないか?
本当は自分でもわかっているけれど、認めることができない…
そして、ひとも自分も誤魔化すことに、疲れて、死んでしまった…?

もう、なんだかわからない…

直之は誰が好きだったのか?
郁代と安子は直之の通夜でも言い争います。

ひとの思いが交錯していて、胸が苦しくなりました。

あの最初の夜に、泣いていたのは安子だった…

そして、江口の帰京の日が来ます。

安子を連れ出して!この町から!
お願い!江口…

安子の気持ちを知ってしまっては、無理なのか…

江口を乗せた列車を見送る、安子…

いままで何か言いたげなシーンばかりだった、旧家に働いていた三郎という若者が、列車を追いかけ、江口に叫ぶのです…

「この町じゃ、みんなが思うとるひとにちっとも気づいてもらえんとですよ、直之さんも、それにあんたも安子さんを好いとる!」

ブーケ1ブーケ2ブーケ1ブーケ2ブーケ1ブーケ2

切ないけれど、素敵な映画でした。

大林監督の、江口としての語りが要所に入り、ああ、お顔が浮かびました!

部屋の白壁にゆらめく水の影や、蛍が飛んでいるのが、とても美しかった。

弦楽の調べが、楽しく、ときに悲しく、優しく見守るように全体に流れていました。

時々、コーーン……、と、鐘をたたくような音が鳴って、はっ、としました。効果音?それとも刻の滴が落ちる音か…

大林監督の映画って、時折、えっ?と思うくらいに、ホッとして、楽しくなるシーンがあります。この映画にも、息が詰まるようなシーンが、一気にパァッと明るくなるところが、いくつもありました。

主役の江口を演じていた、その頃新人の山下規介が、とても初々しく、少々棒読みなところも、それはそれでこの町に慣れない江口らしく感じました。
眉毛一文字☆カッコよくって、素敵でした。

そして、郁代と安子を演じる、根岸季衣と小林聡美が、佇まいは静かでありながら内に明るさと強さがあり、美しいです。
郁代と安子がいれば、この町は大丈夫じゃないかな?なんて思ったりして…あはは。

特に、小林聡美って、本当に明るいんです!
笑い声と、笑顔を見てると、元気もらえます☆

福永武彦の原作を、読みたいと思いました。
そして、この映画が撮られた、福岡県柳川市に行ってみたいです!

最後までお読みいただき、ありがとうございます