[再掲]小森健太朗『大相撲殺人事件』(文春文庫) | 落語探偵事務所

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 Twitterで小森健太朗『大相撲殺人事件』が話題なようなので、2016年04月29日(金) にアップしたものを再掲します。
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 小森健太朗『大相撲殺人事件』文春文庫、2008年(初出2004年)、を昨日一気に読みました。

 大相撲を素材にした、とてつもなく下らなくて、馬鹿馬鹿しくて、真面目な相撲のファンなら読み始めてすぐに放り出すこと間違いなしの、シュールで、ブラックユーモアで溢れかえっていて、奇天烈極まるミステリー小説です。

 ストーリーは、日本の大学に留学して日本文化を学びたいアメリカ人の青年マークが、自分の勘違いとある相撲部屋の懐事情からその相撲部屋に入門してしまうが、その部屋を中心に次々と殺人事件が巻き起こる、そしてマークがその洞察力で事件の謎解きをしていく…というものです。

 読後の感想は「ひどい。ひどすぎる。滅茶苦茶。だけど面白かった」というものです。
 (Amazonの読者レビューでも同じ様に書かれています。)

 その設定が奇天烈なのはいうまでもありませんが、やたらめったら力士が殺されていきます。

 全6話構成でいったい何人の力士が殺されるのか…計算できないくらい殺されます。

 第3話では、アメリカ人幕内力士となったマークの対戦相手の力士14人が連続して殺されます。いくらパロディといってもこれはやりすぎでしょう。私は呆れ返りながら読みました。

 最終第6話では相撲と表裏一体の関係にある「黒相撲」なるものが登場します。これは大相撲と同根でありながら、ルール無用・殺人ありの相撲で、『日本書紀』にその起源が示されている…というものですが、もちろん著者の妄想の暴走の果ての産物です。読みながら、よくもまあここまで暴走できるものだなぁ…と呆れながらも感心しました。

 トリック殺人あり、密室殺人あり、で一応ミステリーにはなっていますが、どれもナンセンスの極みです。(文庫版の解説(奥泉光)によると、そもそもミステリーとは突き詰めていけばナンセンスなのだから、この『大相撲殺人事件』は本格ミステリーなのだそうです。)

 リアルの大相撲で様々な不祥事が勃発する中で、それを笑いにするムードがつくられたのは分かりますが、ここまで茶化すのは見たことがありません。

 真面目な相撲のファンにはおすすめできませんが、そうでもない私のような中途半端な相撲ファンでシュールな笑いを容認できかつブラックユーモアも好きな方にのみおすすめきでそうです。

 (なお、読み終えてから気が付いたのですが、この本がはじめに2004年に出版され、その後2007年に時津風部屋で新弟子リンチ死事件が起き、そして2008年に文庫化されたわけで、もしかしてこの文庫化は前年の凄惨な事件を受けてのものなのか、それは暗すぎる、ブラックすぎる…と一人でもやもやおやしらずしました。)