先ほどまで、怪談話で盛り上がっておりました。何せ、暇なんです。
 
お陰で、幾つかネタの仕入れが出来ました。
 
位牌の話をしてくれた彼の別ネタです。
 
彼の親戚のおばさんの体験談です。
 
「何年か前の事らしいんですけど…」
 


 
おばさんが、入院した知人のお見舞いに行った時の事。
 
車で行ってみると、思いの外に大きな病院で、駐車場がいくつかに分かれていたそうです。
 
おばさんは不慣れな上に方向音痴で、広い敷地内で迷ってしまいました。
 
気がつくと、病院の裏手に来ており、そこは、鉄のドアが何枚か並んだ、何となく雰囲気の暗い場所でした。
 
「変な所に来ちゃったわ。誰か道を聞ける人がいないかしら…」と車を停めてあたりを見回していると、入院患者ら
 
しい服装のお婆さんが建物に沿ってヨタヨタと歩いていました。「あの人じゃ、聞いても判らないわね…」と思い、
 
声をかける事もなく見送っていると、そのお婆さんは鉄のドアの一つを開け、中に入って行きました。
 
しばらくすると、病院の職員らしい人が何人か連れ立って歩いてきたので、その人たちに駐車場の行き方を聞くこ
 
とが出来、ついでに、ちょっと気になったので、先程歩いていたお婆さんの事を彼らに告げました。
 
「入院してる人だと思うんですけどね。お婆さんが一人で歩いてたから、大丈夫かしらと思って。随分お歳みたい
 
だったから、ホラ、もしかして徘徊とかだったら、心配してる方もいるかと思ってね」 
 
「そうですね。でも、ここはまず患者さんが入って来れない場所なんですが…。ところで、そのお婆さんはどちら
 
の方に行きました?」
 
「ほら、そこのドアを開けて、中に入って行きましたよ」
 
おばさんがそう言うと、職員の人達は顔を見合わせました。
 
「あのドア、ですか?―しかし…」 
 
「あのドアがどうかしました?」 
 
「いや、奥さん、あのドア、ほら、あそこにかいてあるでしょう?」 
 
指差された方を見ると、小さく『霊安室』と書いてありました。
 
「れ、霊安室…」 
 
「そうなんです。しかし、あのドアは中から鍵がかかっていて、外からは入れない筈なんですよ。あのドアは、ご遺
 
体を運び出す時に使うドアで…」
 


 
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(←)怪談の定番「霊安室」。鉄板ですね…。