先日、子の顔見せと産後の挨拶のため、産前まで勤めていた職場に遊びに行った。
退職して半年経ち、数人知らないメンバーもいたが、大きな変化というものはなく、楽しいひと時を過ごせた。
 
同僚の1人である花田さん(仮称)が次の4月から本社に異動になるらしい。彼女としては、通勤負担も増えるし、仕事も今より忙しくなるため、あまり気乗りしていないそうだ。
そんな彼女が今回の異動に関して何よりも困っていることが<今後トイレットペーパーをどこで購入するか>という事であると、心底苦い顔で話してきた。
聞き間違いかと思った。話題が変わったのかとも思った。それぐらい私の中では【異動】と【トイレットペーパー】は結びつかなかった。
だが聞き間違いでも話題が変わった訳でもないらしく、彼女の中では真剣な悩みだと言う。
 
花田さんは家族と2人暮らし。より快適な住環境を…と様々な視点からQOLの向上を試みてきたそうだ。トイレットペーパーの見直しもそのひとつで、毎回違う銘柄を購入し、2人暮らしでさほど消費ペースも上がらない中、長い期間をかけて理想のトイレットペーパーを探し続けてきたそうだ。そしてついに見つけた理想のトイレットペーパーはかなりマイナーな銘柄で、自宅界隈も含めあちこち探すも、現在の職場近隣の店でしか見かけないのだという。
本社と現在の職場は離れており、その中間地点に住む彼女は、今後トイレットペーパーのために電車賃を使ってはるばる赴かないといけなくなった。かといって、時間をかけてようやく辿り着いた理想を捨てて、気に入らない他のトイレットペーパーを使うのも嫌だ。
異動は仕事も人間関係も変わるから負担が大きいと分かっている、その負担よりもトイレットペーパーの件が何よりも困る。彼女はコーヒーの入った紙コップを両手で弄びながらそう語るのだ。トイレットペーパー業界の人が聞けば泣いて喜ぶだろう。
 
【こだわり】は人それぞれ。多様である。分かっていたつもりだったが、花田さんの話を聞いて改めてその多様さを実感した。
私もトイレットペーパーにこだわってみようかな、と彼女に伝えた。まずはシングルかダブルかを定めるところからだそうだ。
なるほど、これは長期戦の予感がする。奥深い世界を垣間見た気がした。