日本のドラマは殆ど見ないのですが、ケーブルテレビでアメドラを見ることはあります。
 最近見た中で面白かったのは、「CIA - The Company」というミニシリーズです。1950年代の東西冷戦時代から、ベルリンの壁崩壊までの、米ソの諜報機関CIA(ニックネームがThe Company)とKGBの駆け引きを中心に、ハンガリー動乱やキューバ危機などのエピソードを交えながら、話が展開されていきます。(因みに、欧米の知識人で、共産党員だった人達の多くが、ハンガリー動乱をきっかけに、共産党を脱党しました。このブログでも以前取り上げたカルビーノという作家もそうした人の一人です。日本でハンガリー動乱をきっかけに、共産党を抜けた人がどのくらいいたのかは寡聞にして知りませんが、私はそのような話は聞いたことがありません。まあ、自分自身の頭で、物事を考えようとしないのは日本共産党員に限らず、ある程度日本人全体の問題だとは思いますが。因みに今日街で共産党のポスターを見ていたら、赤色が日の丸の赤のように見えました。)
 「CIA - The Company」が面白かったのは、それが、スパイの話だったからだと思います。まあ、CIAとKGB自体がスパイ機関なのでスパイの話になるのは当り前なのですが、スパイといっても、2重スパイもいれば、3重スパイもいるわけで、自分の同僚の中に、2重スパイがいるかもしれないと疑いだすとパラノイアになってしまうし、3重スパイなんかになったら、自分自身がどっちの味方なのかわからなくなってしまいます。ブルース・リーの映画にもありましたが、CIAとKGBの戦いも、鏡に映った鏡像と闘っているイリュージョンの世界のもので、両者とも「現実」に対してどれだけの影響力を及ぼしえたのかわからなくなるところが、ただの薄っぺらいスパイ映画と違う深みのあるところでした。
 東西冷戦は、結果的にはアメリカ(CIA)が勝ったと言えるのでしょうが、このドラマの主人公のCIAエージェントは、冷戦が終ったあと、この冷戦はいったい何だったんだろう、自分達は本当に勝ったと言えるのだろうか、という疑問を払拭できません。せいぜいがとこ、We screwed less.(我々の方がよりしくじらなかったのだ。)という言葉にせめてもの慰めを見出すくらいです。私の冷戦時代の記憶というと子供の頃の漠然としたものに過ぎませんが、今となっては一体あれは何だったんだろうと思うし、9.11のテロやイラク戦争の成行を見ていると、CIAは一体何をしてきたんだろう、世界最大で最高の諜報機関であるはずのCIAは一体どんな情報を収集し、どんな情報処理をしているのか、ということを考えざるをえません。
 「CIA - The Company」で面白いのは、ドラマの至るところに、『不思議の国の(鏡の国の)アリス』が織り込まれているところです。ドラマの中で何度も直接アリスの物語への言及がなされるのは勿論ですが、考えてみるといろんなところにアリスについての暗示が盛り込まれているように思います。 
 そもそも、CIAに入局する二人が、クルーメイト(ボート漕ぎレースの仲間)というのも、もともと、アリスの話がボートの上で作者が親戚の娘に話したものをもとにしているのと関係しているのかもしれないし、イギリスのMI6の諜報員が吃音なのも、作者のルイス(本名ドジソン)が吃音だったことを連想させます。恐らく、アリスと何らかのつながりを持つ仕掛けが、探せば沢山盛り込まれているのでしょう。アリスマニアの人にはそうしたものを見つける楽しみもあると思います。(ドラマの中にもアリスマニアの女性CIA職員が登場します。)私もアリスの話を真剣に読んでみようと思いました。リドリー・スコットが兄弟で製作したドラマですが、製作者のアリス愛が感じられる作品でもあります。再放送されたり、DVDになったりしたらご覧になることをお薦めします。