福岡市民会館での月組全国ツアー公演『ブラック・ジャック 危険な賭け』と『FULL SWING!』(Revised)は充実した内容と出来栄えでした。ブラック・ジャック(B.J.)は,生きていることの意味を真剣に問い直すという大きな主題でした。
演出の正塚晴彦さんとしては,初演のときの硬質なテーマだけでなく,今の月組らしいエンターテインメント性を加えて・・・,との意図があったようです。月城かなとさん演じるB.J.は立ち居振る舞いに華があり,諜報部中尉役を演じた海乃美月さんのシャープな表情も魅力的でした。風間柚乃さん(ケイン役)たち助演者もそれぞれの個性を発揮しながら演技に工夫を凝らして全力で臨んでおり,最後まで眠くはなりませんでした。
医療物はどうしても命の遣り取りがテーマなので,理屈っぽい話の展開になるのは仕方ないとしても,メッセージ性を損なわない程度にエンタメとしての楽しさもスパイスとして効いていたなと思います。
生まれた奇跡を思い起こすなら
苦しみでも悲しみでも
人は誰も生きていたい
「かわらぬ思い」(作詞/正塚晴彦,作曲/高橋城)より
B.J.が成功率10%以下の難手術に挑むのは,患者自身が生きることへの切なる希望や愛する者への執着を捨てていないことが前提であり,決して名利を求めるだけの行為ではないということが改めてよく理解できました。月城さんならではの情熱を秘めた説得力あるお芝居が心地よく感じました。
共演者では,またしても看護師役を任された白河りりさんや外科医役を演じた結愛かれんさんの白衣姿に癒されました。若手では進境著しい礼華はるくんの活躍が『FULL SWING!』でも光っていました。
お芝居が終わったのは午後9時過ぎ。小雨を肌に感じつつ,B.J.を気取ってコートの裾を広げながら那珂川沿いを闊歩してホテルに帰りました。マスクもせずに川面からの冷たい空気を吸い込んだせいなのか?途中で寒くなって大きなくしゃみが出てしまいました。さすが師走の博多の夜は冷えます。