セシル | 口遊〜鳴きウサギ〜

口遊〜鳴きウサギ〜

生きる為に 息をするのを忘れていた
わたしのまわりが 息をするには狭すぎる
野々草を摘んで 口遊みなが ゆっくり ゆっくり歩きたい
勝利者とは誰のこと?
居心地の悪いところに居たくはないの

ー句ー

征く人のわけを知りたる秋の朝

ーセシルー

セシルはクマのぬいぐるみを抱いて
去ってゆく ママを見送っていた
その少し前 パパも同じように居なくなった

ママの乗る黒い列車の行き先さえ
わからない

手元に残ったものは
お誕生日にパパとママがくれたクマと 
陽だまりの香り

ママが居なくなった朝
彼女は泣くことを辞め
パパのことも ママのことも
子どものセシルと少しも
変わらないと知った

大人は大きな子どもに過ぎない
大きな子どもたちは
大きいというだけで
好きなところへ行けて
買い物もできる

彼女は小さいという理由で
どこにも行けず
クマのぬいぐるみに子守りをされて
ほんとうは 何だって知っていたのに…

大人という子どもは 
子どもの頃に止められた
危ない遊びをほんとうはやりたい…
もう一度子どものように 素直な言葉で
思ったことを自由に表現したいんだ

チョコレートをほうばりながら
彼女は施設という新しい家の壁に凭れ
冷たく澄んだ瞳で 僕に言ったけど
僕はなんにも返せ無かった

だって 僕はクマなんだもの
セシル…君を護れと仰せつかった
単なるクマのぬいぐるみさ…

セシル…だけど君は
やりたいことをやるがいいさ

小さな体の
もうすっかり大人なんだから…

同じ後悔を繰り返さないように…