綾と彩 | 口遊〜鳴きウサギ〜

口遊〜鳴きウサギ〜

生きる為に 息をするのを忘れていた
わたしのまわりが 息をするには狭すぎる
野々草を摘んで 口遊みなが ゆっくり ゆっくり歩きたい
勝利者とは誰のこと?
居心地の悪いところに居たくはないの

ー綾と彩ー


白粉のかをりのする横顔を
僕は 好んでいた
貴女は 洗い立ての髪を一纏めにし
腰掛窓に 腰を下ろして
浴衣姿のまま 団扇でもって 熱帯夜に小さな風を起こしていた

夏の夜の奇跡かにおもふ白き手の
団扇に起きる涼風の吹く


「この後 どうするの・・・?」
なんて 台詞を いつも貴女は呟いた
貴女に見惚れていた僕は それでいつも狼狽したんだ

「一杯 ひっかけに行くかい?」
これが おきまりの僕の 台詞・・・

暗黙の了解のごとき決め事は
幸も不幸もない交ぜにする


たちまちのうちに 貴女の眉間に皺が寄る
ああ・・・気に入らないのか・・・
僕は 悟るけれど 次の案が思いつかない・・・

「どうしたいんだい・・・?」

曇った顔の貴女が 風を送る手を止めて
僕をじっと 見つめるとき
僕は早鐘の鼓動となる
緊張の一瞬となる 

貴女の唇が どう動くのか・・・?

君の望みを叶えまほしとおもふれど
飛びかふ君に着いてゆけずに


「今夜・・・
こうして あなたと一緒に この部屋で 呑みたい
正体無く呑みたい・・・夏の夜なんて短いんですもの
騒々しい場所へは 行きたくないわ・・・そして・・・」

「そして・・・?」

貴女の身体が 腰掛窓から滑るように落ちてくる

「寂しいものが なんにも入って来ないように
ずっと ふたりで居たい いつもふたり 遠すぎるんですもの・・・」

僕は 困らせたり 緊張させたりする貴女に
十分手を焼いているのに・・・
愛おしくて 愛おしくて 愛おしくて

涙が出るんだ・・・

底の無き埋めやふの無き性の差を
今宵は越えよ愛といふ舟