風邪を引いている あなたへ | 口遊〜鳴きウサギ〜

口遊〜鳴きウサギ〜

生きる為に 息をするのを忘れていた
わたしのまわりが 息をするには狭すぎる
野々草を摘んで 口遊みなが ゆっくり ゆっくり歩きたい
勝利者とは誰のこと?
居心地の悪いところに居たくはないの

ー風邪を引いている あなたへー

風邪を引いたようだと あなたは呟いていきなり畳みに横たわった

冷たい北風が戸を叩く夜更けに 仕事から戻って来てから・・・
わたしは あなたの額に手を充ててみながら 自分の額と比べてみた

改めて寝屋の仕度を整えてから 食べたいものはないかとそっと聞いてみた
あなたの虚ろな目を覗き込み わたしは心配顔だったのだろう・・・

朧な二つの影は 表障子にはどんなふうに映るのか・・・わたしたちはいつも静かだ・・・
いつだって 音の無い 影絵のようだ 慌てたり騒いだり 大声も無い・・・
冬の障子に映し出された 蝋燭の火を頼りにしている あの淡い影のようだと・・・

あなたは 静かに言う
粥などは 要らぬから 卵酒を飲みたいと 
それで わたしは言われるままに清酒を用意しながら それを五徳に掛けておき 今朝 やっと生んでくれた 活きのよい鶏の卵を 吊るした籠から大切に取り出した 慌てて落としたりしないように・・・

視線を感じて振り返ると 熱を出して赤い顔をしたあなたが 力無く微笑んだ

「悪いね・・・」出し抜けにそんなことを言い出す
「らしくないですね・・・鬼の霍乱ですか?」
わたしは無理に笑ったけれど ほんとうは心配だった いつも強気なあなたが そんなに弱ることもあるなんて・・・そんなことを言うだなんて・・・

共に暮らし始めて 初めてかもしれない・・・

身体が弱いのは 君の役目で十分だなんて いつもは強がってばかりいても たまにはいいものです 風邪を引くあなたを見ることも・・・

それでも 冬も終を迎えるこの頃に ふとしたことで あなたが気を緩めたことが 春の報せのように思えるけれど それだけに少し不安にもなる

季節を越えてゆくことは ひとつ命を拾うこと・・・
あなたもわたしも この極寒を 越えてさえゆけば また永らえる

人肌程度にあたためた清酒に 少し砂糖を溶かし 火から下ろして 生卵を掻き混ぜてから それを少しづつ清酒に混ぜ込んでゆく 
大地の恵みと 小さな命の犠牲を頂きながら あなたの命の手助けを祈念する 箸でそっと混ぜて祈りを捧げながら・・・風邪の退散を祈念する

「さあ・・・できました 熱いかもしれないから 気をつけて・・・」
あなたへ 卵酒を差し出しながら わたしは あなたの背中へ廻り 衝立に預けておいた半纏を取ると そっとあなたの肩へと掛けた

(いつもは 広い背中が 今夜は疲れて見えますね・・・
ゆっくりおやすみなさいませ もうすこし 寒さは続くのでしょう・・・

あなたの見たい白梅の咲き揃うのは もう少しだけ 先になる・・・)
心の中で呟きながら あなたの背中を見つめていたら・・・

あなたが 熱の有る手でわたしの手を握ってくるから わたしはその手を握り返した
「大丈夫・・・わたしは ここにいます」

あなたの背中に寄り添って あなたの熱が下がるまで 朝になるまで起きています

まるで 幼い子のするように 風邪気分の子のするように あなたはとても頼りない
木枯らしは 外でまだ吹くけれど わたしには あたたかいこの庵 春のようにも思えていて
しばらくはこのまま 時が止まっていいと思っていた

「おやすみなさい きっと明日には少し楽になっている 今日は辛いかもしれないけれど・・・いつもはあなたが 擦ってくれる背中を今日は わたしが 擦ってあげよう・・・」


ーうたー

病む床に寒の極みは過ぎゆけば庵に応ふる春はここぞと
(yamutokoni knnokiwamiwa sugiyukeba
ionikotauru haruwa kokozoto)


☆ こんばんは そして おはようございます わたしの周りで 調子を崩している方や風邪を引いていらっしゃる方が多くいます

今日は体調を崩された皆さまへ お見舞いの意味を込めて 創作散文を書かせて頂きました
いつもとは少し 趣向が違いますが よかったら読んでやってください

あ・・・卵酒の作り方は これでいいかどうか知りません・・・実は 祖父が大酒呑みで・・・(^_^;) でも風邪を引くと わたしには卵酒を作ってくれる優しい祖父でした その必殺遊び人の祖父の秘伝の卵酒の作り方が今もわたしの作り方となっています・・・これ以外に色々と少しアレンジするのですが・・・

レシピは・・・ふふふ・・・内緒です

みなさまへの寒中お見舞いも込めて ウサギより