杣山の夢 | 口遊〜鳴きウサギ〜

口遊〜鳴きウサギ〜

生きる為に 息をするのを忘れていた
わたしのまわりが 息をするには狭すぎる
野々草を摘んで 口遊みなが ゆっくり ゆっくり歩きたい
勝利者とは誰のこと?
居心地の悪いところに居たくはないの

おほけなく うき世の民に おほふかな

 わがたつ杣(そま)に 墨染(すみぞめ)の袖

前大僧正慈円(95番) 『千載集』雑中・1137


訳・・・身のほども弁えぬことではあるが このつらい浮き世を生きる人々を せめて 祈り包み込もう
この比叡の杣山に住み始めたわたしの墨染めの袖で・・・それがわたしにさだめられた宿命であろう・・・


言の葉の美

「おほけなし」・・・恐れ多い 分不相応である などの意味 
☆慈円は時の関白の子息であったが 僧侶の身となる よって高い身分のものが 自分を謙って使った言葉

「おほふ」・・・覆う 包む 護るなど 
☆この歌では 慈円が僧侶であることから 墨染めの袖で覆うと解釈され 包み護り 祈り救済することの意味 と考えられる また おほふ は 袖 と縁語である

「杣山」・・・植林した木を切り出す山のこと
☆慈円は 比叡山に籠もった この歌は 比叡山開祖 最澄が「わたしが立つ杣に冥加あらせ給え」とうたったうたを踏まえているとも言われている

「墨染め」・・・僧の衣 薄様の黒い衣 
☆ここでは 「墨染」と「住み初め」の掛詞 「おほふかな」に続く倒置法として より強く情感を印象付けている

前大僧正慈円という人・・・関白藤原忠通の息子 13歳で出家 37歳で天台宗の座主となる
日本初の歴史論集「愚管抄」の作者でもあるといわれている
比叡山入定を鑑みて このうたは 20代のころに詠まれたものと思われる

メモ都議会選出馬競争激化に 東京は火花を散らしている 今日 ふと上のうたが頭を過ぎった

どなたでもよいが 祈るようにこの国の行く末を 深く案じる政治家は ほんとうにいるのだろうか・・・私利私欲を無きものとして・・・果たして・・・だ

ただの民であるわたしは この歌に心惹かれる 20才の若き僧侶は 比叡山に籠もる時に 世俗を捨てながらなお 世俗を案じ続けた 

天命は50才になって初めて知ると言われるが 慈円は いくつで天命を悟ったのであろうか
そしてわたしは いつになれば 大人らしいことができるのだろうか・・・

ーうたー

住み慣れし地を飛び立ちて鳥はいさ進むに難き風にい向かふ

  
ー杣山の夢ー

うつけのわたしは うつらうつらと
ひがな一日 寝て暮らす

まなこの裏に 夢がある
憂き世の徒然 見るよりも

夢路に遊ぶ 蝶が良い
夢路流るる 細流(せせらぎ)が良い

星の光るを数えては
糸で繋いで絵を描いて

丘を飛び越え 山越えて 海に帆を張る舟になる

吐息をひとつ落としたら
雪を降らせる 雲になる

涙ひとつを零したら
水の足りない砂漠にも オアシスひとつ贈り物

わたしの笑顔は 何になる
せめて あなたが悲しいときに
あなたの頭上で鳴いている 雀になろう ひばりになろう

うつけのわたしは うつらうつらと
ひがな一日 寝て暮らす