便利な世の中

一人住まいの男がいた。数年前、妻に先立たれ、仕事は2年前に定年退職をして、現在は年金暮らしである。少し離れた街に息子夫婦が住んでいるが、時々様子を見にくる程度で、毎日の食事も自分で用意している。

男の家にはパソコンがある。最近、息子が気分転換になればと、買ってくれたのだが、男は使いこなすのに苦労していた。これまで、パソコンに触れたことさえないのだ。そんなときに、男はテレビでネットスーパーの存在を知った。

近頃は外へ買い物に行くのも億劫になっていた。しかしこれなら、家にいながらにして、食材や生活必需品を購入できる。男はさっそく利用しようと思ったが、そもそもシステム自体を理解することが出来ない。

息子に電話で聞いたりして、悪戦苦闘の末に、なんとか近所のスーパーのサイトにアクセスしたが、男にはさっぱり分からない。パソコンの画面には食材の画像がたくさん映っている。男はそれを見て考え込む。

そのなかには男の大好物、うなぎの蒲焼きの画像もあった。男はえいやっ！とばかり、その画像をクリックした。すると、パソコンの上に設置してあるプリンターから、一匹のうなぎがにょろにょろと出てきた。

脂の乗った新鮮なうなぎが、男の目の前にぶら下がっている。男は驚きながらも、そのうなぎをプリンターから引き抜いて、「便利な世の中だなぁ」と感心した。