光が地上を覆った。次いで、音が鳴った。
彼は何かに急かされるように目を覚ました。
息苦しい圧迫感が、彼を襲った。
そして、暗闇と、異臭。
嘗て経験したことがない臭いに、意識は苛まれた。
必死に、彼は自分を圧迫するものから、逃れようとする。
身もだえ、這い出ると、そこは、一面、焼け野原だった。
「・・・・」
彼は、痛む全身に鞭をうって、立ち上がった。
ふと後ろを振り返り、今まで自分を覆っていたものを
みた。
それは幾体もの人の形をした、ものだった。
―そう、もの、であった。
嘗てはヒトと呼ばれていたもの。
命を失い、抜け殻となった肉体は、焼け焦がれた塊であった。
彼は、言葉をなくした。現実が飲み込めなかった。
周りを見渡すと、建物の残骸がてんでんばらばらに
散っていた。
「終わりが来たのだ」
彼はぼそりと呟いた。後ろへ、下がると、ふいに足を掴む感触が。
「あつい・・・あつ・・・い」
貌が半分焼け爛れて、皮下組織があらわになった女性が、
虚ろな言葉を吐いていた。長かったであろう髪の毛が、すでに
数えられるほどにしか、頭皮に残っていない。
彼は、女性の手を払い、一目散に逃げた。
何処ということもない。ただ、走った。
死体の山、瓦礫、微かに生きた人のうめき声。
これらから、逃れるために。
どのぐらい走っただろう。体力の限界がつき、
一本の大樹の元に駆けより、背を凭れた。
「どうだい?」大樹の根本から声が聞こえた。
彼は、空耳かとも思い、無視をした。
「どうだい?」次は、樹上から声がした。
彼は見上げた。確かに声が聞こえた。
「どうだい?」今度は、自分の目の前から。
ぱっと顔を下げた。そこに、身長が1メートルにも満たない
老人が立っていた。
「どうだい?」老人は、彼に言った。
彼は、言葉の意味が分からず、返答しなかった。
「君が望んだとおりになったよ」
老人は微笑して、言った。
彼は怖くなり、腰を上げて、逃げようとした。
「また、逃げるのかえ」
老人は、愉快そうに言った。声音が弾んでいるのだ。
「これは、君が望んだ世界だ。君が、自分のいた世界を
新しくしてほしいと、願ったんだ」
老人の言葉に、彼の思い当たる節はなかった。
「おやおや、忘れたのかい」
老人は、彼の前に回りこみ、
「私は、君の願いを叶えた。君は、今の全てをなくしてでも、
未来を変えたかった。家族や友人、お世話になった人。全てを
なくしてでも」
彼は、困惑した。確かにそんなことを頼んだ気がする。
思い出そうとすると、脳の襞がちりちりと焼けるような熱をもった。
「君は何を手に入れたかったんだ。全てを消し去って何を」
老人の問いに彼は何かを思い出した。それまでの全てをリセット
させてまで、自分が手に入れたかったもの。
~それは、自由~
(後編に続く)