All Good Things.. -19ページ目

All Good Things..

可能性の未来          

勝負のゆくえ



 鏡と思われたガラス窓の向こうの、小林少年に変装した二十面相は、さっと
きびすを返すと、かくし部屋を飛びだしていきました。
「アッ。待てっ」
 中村係長が鏡の中へ飛びこみそうになるのを、小林少年がひきとめました。
「中村係長、こっちです。あのかくし部屋から通じている廊下は、さっきぼく
がおしこめられていた物置につながっているのです。先まわりしておさえまし
ょう」

 ふたりは、物置部屋をめざして階段をかけあがりました。途中で道がふたま
たにわかれていて、中村係長がどちらに進むべきか迷っていると、
「こっちです中村さん、ぼくについてきてください」
「おお、そうか」
「だめです中村さん、それはぼくじゃないッ」
 なんという大胆なことか! 逃げたと思われた二十面相は、いつの間にか小
林少年たちといっしょに階段を走っていたのです。またもしてやられた中村係
長は、顔を真っ赤にして、「こいつめっ」と、二十面相の小林少年に飛びかか
りました。ところが相手は突進する係長をひらりとかわすと、暗やみにすがた
を隠してしまいました。
「ワハハハ……。なかなか面白かったぜ、小林君、それに中村係長。しかしそ
ろそろおいとますることにするよ。」
 二十面相の声が、ふたたび博物館にひびきわたったかと思うと、不気味なが
い骨の顔が、暗やみの中にぼおーっ、とうかびあがりました。そして、そのが
い骨が、ふわふわと宙に舞いあがっていくのです。集まってきた警官隊も、み
なそのおそろしい光景に、いっしゅん動けなくなってしまいました。



「気球だ! やつは空に逃げようとしているんです!」
 小林少年がさけびました。
「撃て、撃てっ」
 中村係長の合図で、警官隊が気球にむかってピストルを撃とうとしました
が、駆けつけてきた博物館長が、
「待ってください、宝物に万一のことがあったら……」
 と真っ青になって頼むものですから、手を出すことができません。その間に
も、二十面相を乗せた気球はぐんぐん遠ざかっていくのです。
「あばよ、諸君。明智センセイにもよろしくつたえておいてくれたまえ。ワハ
ハハ……。」 

 ああ、ついに、気球は見えなくなってしまいました。博物館長たちががっく
りと肩を落としていると、小林少年がほがらかな声で、びっくりするようなこ
とを言い出しました。
「いやあ、よかったですね。二十面相には逃げられてしまいましたが、それも
計画のうちです。むしろ、はやく遠くに行ってもらったほうがいいくらいで
す」
「君はいったいなにを言っているのかね。宝物はやつに持って行かれてしまっ
たじゃないか。なにがいいものか」
 小林少年の意外な言葉に、博物館長がひじょうな剣幕で怒りだしました。無
理もありません。小林少年はなにを考えているのでしょうか。
「館長、おちついてください。リューネブルクの首飾りなら、ほら、ここにあ
りますよ」



 小林少年は、こともなげにそう言うと、背広の内ポケットから光り輝く首飾
りを取りだしてみせました。読者諸君、それは、まぎれもなくリューネブルク
の首飾りなのでした。館長や中村捜査係長が腰を抜かさんばかりに驚いたこと
は、いうまでもありません。



「二十面相が持って行ったのは、ぼくが用意したにせものです。だまっていて
申しわけありませんでしたが、実は、女学生にばけてここへやってきた最初の
日に、とっくに本物とすりかえてあったのですよ。そして、あいつが持ちさっ
たにせものには、超小型の電波発信器がかくしてあるんです。そのことに気づ
かれないように、あいつに振りまわされるふりをしていたというわけです。さ
あ中村係長、発信器を手がかりに、敵のアジトをさぐりだしてください。」
 これには、中村係長以下、大人たち全員がぼうぜんとさせられてしまいまし
た。あの二十面相を完全に出しぬいてみせるとは、あきれるほど肝のすわった
少年です。

 ほこらしげにほほ笑む小林少年の耳に、少年探偵団のみんなのうれしそうな
声が聞こえてきました。
「小林団長、ばんざーい! 少年探偵団、ばんざーい!」
 小林少年は、彼をたたえるなかまたちの声に、身をゆだねるように、そっと
目をとじて聴き入るのでした。

 でも、ちょっとおかしくないでしょうか。少年探偵団なんて、この物語に登
場していなかったのではありませんか。

 ……おかしいな。この声は、どこから聞こえてくるんだろう。

 ……




つづく


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暗やみの追跡



「フフフ……。このおれをあざむくとは、さすがは明智の一番弟子だ。と、と
りあえずはほめてやろうじゃないか。しかし坊や、天下の大怪盗、怪人二十面
相を甘くみてはいけないぜ。なにがおきてもあわてない準備はちゃんとしてあ
るんだからな。それは……こうさ!」
 その瞬間、いったい何が起きたでしょうか。二十面相がパチン、と指をなら
すやいなや、それが合図と、いきなり博物館全体の電気が消えて、あたりがま
っくらやみに包まれてしまったのです。
「ワハハハ……、さらばだ、少年探偵くん!」
 暗やみに、勝ちほこったような二十面相の声がひびきわたります。
「まてッ、二十面相!」
 小林少年は、ふところから懐中電灯をとり出すと、しんちょうにあたりを照
らしながら、賊のゆくえを追いかけはじめました。



 いっぽう、いきなり暗やみにつつまれた博物館のなかは、上を下への大さわ
ぎになっていました。いつもは頼りになる警官隊のつわものたちも、ふいをつ
かれて右往左往するばかりです。警官隊を指揮していた、警視庁の敏腕で知ら
れる中村捜査係長も、やみの中ではどうすることもできません。
 そんなさわぎをしり目に、小林少年はあわてる様子もなく、水飲み場の鏡を
見つめています。それをみとめた中村係長は、
「小林君じゃないか。そんなところでなにをしているのかね。たしかに君はか
わいらしい顔をしているかもしれないが、この一大事に鏡にみとれていては困
るじゃないか」
「ハハハ……、中村係長、ぼくは鏡にみとれてなんかいませんよ。それに、よ
くごらんなさい。そこに映っているのは、ぼくじゃありません」
「えっ。それはいったい……」



 いったい、どういうことなのでしょう。小林少年は、目を丸くしている中村
係長に目くばせをすると、うす暗い鏡の中にぼんやり映っている自分にむかっ
て、ピストルのねらいをつけました。
 すると、どうでしょう。鏡の中の小林少年が、にやりと笑って、両手をあげ
たではありませんか。中村係長は、じぶんの気がちがってしまったのかと、大
いに驚きました。
「この鏡のうら側に、秘密の部屋があることは先刻承知さ、二十面相。さあ、
お次はどうするね。もう降参してしまったほうがよくはないかな」
「まったく君は賢いやつだよ、小林君。しかし、この勝負はすでにおれの勝ち
なのさ。だってそうだろう、お宝はもう、おれの手の中にあるんだからね」
 ああ、やはりそうなのでした。このさわぎの中、二十面相はリューネブルク
の首飾りを盗み出していたのです。この知恵くらべの軍配は、二十面相に上が
ってしまうのでしょうか。




つづく


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少年探偵登場



 二十面相のわなにかかったお嬢さんは、網で自由をうばわれたまま、博物館
の使われていない物置部屋に投げこまれていました。
「さあ、お嬢さん。ここでゆっくりお昼寝でもしていてくれたまえ。君の目が
覚めるころには、リューネブルク家のお宝は、この二十面相じまんの美術館に
すっかりおさまっていることだろうよ。ハハハ……。」
 不敵な笑いをひびかせながら、二十面相は去っていきました。ああ、このま
ま宝の首飾りは、にくむべき怪盗の手におちてしまうのでしょうか。

 しばらくして、物置部屋の扉のまえに、ふたたび二十面相がすがたをあらわ
しました。
「おや、あの小娘め、ずいぶん静かにしているな。めそめそ泣いているかと思
ったが……それともほんとうに眠ってしまったかな?」
 二十面相は、鍵穴から部屋をのぞきこむなり、ギョッとした顔になりまし
た。
 そこには、お嬢さんをしばりあげていたはずの網だけが、無造作に部屋の床
に落ちていました。いや、その網の中には、お嬢さんが身につけていた女学校
の制服まで、そのまま置かれています。まるで、ヘビが古い皮を脱ぎすててい
った跡のようです。ところが、お嬢さんのすがただけが、影もかたちもありま
せん。煙のように消えてしまったのです。こんな不思議なことがあるでしょう
か。
 さすがに驚いた二十面相が部屋に飛びこんでくると、どこからともなく、笑
い声が聞こえてきました。
「ハハハ……。ひどくめんくらっているようじゃないか、二十面相君。ぼくな
らここにいるよ。もっとも、君が探している女学生ではなくて申しわけないが
ね……。」



「ウッ。そうか。おまえだったのか。」
 声の主は、二十面相の前にすっくと立つと、長い黒髪を、ぐいっと引きはが
しました。そこにあらわれたのは、りんごのような頬の、凛々しい少年のすが
たです。読者諸君、もうおわかりでしょう。あのふしぎなお嬢さんの正体は、
名探偵明智小五郎の少年助手、そして少年探偵団の団長でもある、小林芳雄君
その人だったのです。



「おあいにくさまだね、二十面相。変装ならぼくも得意なのさ。ぼくはあの女
学生にばけて、きみがどんな手をつかってこの博物館に忍びこんでくるか、ひ
そかにさぐっていたというわけさ。しかし、きみはさっきぼくに向かって、
『君が何者かは知らないが』といっていたね。ぼくの変装に気づかないとは、
二十面相ともあろうものが、ずいぶんうかつなことじゃないか。ハハハ…
…。」
 そう言い放つと、小林少年は、手にしたピストルのねらいをぴったりと二十
面相にあわせました。
「さあ、観念したまえ、二十面相くん。」
 勇敢な少年探偵の活躍で、天下の大怪盗はついに追いつめられたのです。し
かし、ほんとうにそうでしょうか。魔術師とまでよばれたあの希代の怪人が、
あっさり降参してしまうとは思えません。まだまだ油断はできないのではあり
ますまいか。



つづく


※ご本人以外の二次使用はご遠慮ください
ふしぎな女学生



 東京・下町のあるお屋敷町にぽつんと建っている小さな博物館が、にわかに
人々の注目を集めるようになったのは、西ヨーロッパの小国、リューネブルク
王家に伝わる花の首飾りが日本ではじめて展示されることになったからでし
た。
 その首飾りには、ひじょうにめずらしい桜色の宝石が花のかたちにはめこま
れていて、時価何百万円ともいわれる貴重なものなのです。
 そして、ついにその宝物をねらって、あのおそるべき大怪盗、怪人二十面相
が、博物館に予告状を送りつけてきたのです。あわてた博物館長は、まよわず
当代きっての名探偵・明智小五郎に相談しようとしたのですが、あいにく明智
探偵はアメリカに出張中で、しばらく帰国することはできないとのことでし
た。困りはてた館長は、熱を出して寝こんでしまいました。

 さて、そうして大さわぎになっている博物館に、ひとりの女学生のすがたが
ありました。ここ数日のあいだ、毎日ひとりで通ってきては、展示品をながめ
たり、読書をしたりしてすごしているのです。お人形さんのようにかわいらし
いお嬢さんでしたので、博物館を訪れる人たちのあいだでたちまち評判になっ
たのですが、彼女の名前や学校を知っている人はだれもいませんでした。



 しかし、このお嬢さんには、すこしおかしなところがあるのです。あたりに
人の気配がなくなると、急にするどい目つきになって、博物館の中を見回した
り、不審者を監視するようなうごきをしたり、いろいろと謎めいた行動をはじ
めるのです。はたして、このお嬢さんは何者でしょうか。そして、何が目的な
のでしょうか。ひとつ、読者諸君もお考えになってみてください。

 そうしていよいよ、二十面相が首飾りを盗むと予告してきた、その当日のこ
とです。警察がげんじゅうな警戒をしいている博物館に、いつものようにあの
お嬢さんのすがたがありました。もちろんこの日は休館日になり、一般人の入
館は許されていません。それなのに、なぜお嬢さんはここにいるのでしょう。



 お嬢さんは、しばらく首飾りが置かれている部屋を見ていましたが、やがて
何かに気づいたように、階段を下りていきました。
 そのときです。とつぜん、天井から、お嬢さんをめがけて大きな網が落ちて
くるではありませんか。
「アッ。」
 なんということでしょう。ふいをつかれたお嬢さんは、たちまち網にからめ
とられてしまいました。
「ワハハハ……。お嬢さん、君が何者かは知らないが、ここしばらくうるさく
かぎまわっていたのはとっくに気づいていたよ。しかし今日ばかりは、おれの
仕事をじゃまされてはかなわないんでね。しばらくおとなしくしていてもらう
よ……」
 どこからともなく聞こえてきた、にくにくしい声の主は、まさしくあの怪人
二十面相だったのです。とらわれの身となったお嬢さんの運命は、いったいど
うなってしまうのでしょうか。



つづく


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ほずきりん さんas小林少年


Comming Soon...


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