あの後、二人は日が暮れるまで河原でただ時間を過ごした。




伊吹は何も言わずにただ、震える主人公の手を重ねていた…。





何もいわずに、ただずっと黙って─────…











─────────夕暮れになったので、伊吹は主人公を寮まで送り、最後に頭にポンっと手をやり、
「じゃあ、明日な」
と言って帰っていった。




主人公は学校を初めて休んだ



(こういうのをずる休みって言うんだよね・・)



寮のドアを開けながらふとそんなことを思う




部活のこと、栄子のことも心配だったが、何よりも大翔のことが気になっていた。






────パタン






主人公は部屋に入ると膝と両手を床にペタっとついて、ただ俯いた。





(きっともう許してもらえない)











『おまえはその気持ちをズタズタに引き裂いてくれたよ』







(あの時の顔が焼きついて離れない





あの声が耳について離れない






あんなにあんなに大切にしてくれたのに────)





背中から冷たい雫がスーっと伝っていくのがわかった





(あたしは・・・・・・風間くんの気持ちをふみにじったんだ






あやまらなきゃ・・・・






誠心誠意ありったけの気持ちをこめて─────)







───────次の日




やはり学校に行く気にはなれなかったが、逃げてばかりではいけない・・・
そう思い少し遅れて2限目から登校した。


足取りを重く感じながら靴箱で靴を履き替えていると、後ろから背中をポンっと叩かれた




「わっ───…


神坂先輩・・」




「おはよ。珍しいね、○○ちゃんが学校にも部活にも来なかったなんて。栄子ちゃんも昨日からインフルエンザらしいよ~」



(栄子・・・・大丈夫かな・・・・)


あとでメールしようと考え、とりあえず話をそらした




「先輩こそ、もう2限始まるのにどこ行くんですか?」



「ああ、俺はコイツらと食堂で早弁。」


ふと後ろに目をやると、後ろにいかにも爽やかな長身の人と、メガネに黒髪で、いかにも授業などサボらなさそうな秀才系の人がいた。



(やっぱり神坂先輩の友達なだけあって、イケメンだなあ・・・・)




そんなことをぼんやり考えていると、メガネの方が口を開いた




「誰だ、この女」




無愛想な態度に少しムッとくる主人公




(この女って・・・・・)




「ああ、マネージャー1年の○○ちゃん。可愛いだろ~?



○○ちゃん、紹介しとくね。こっちの長身な奴が近藤。こっちの少し愛想ないやつが矢島。」



「どうも」


近藤先輩という人はにっこりと微笑んでくれたが、メガネの矢島とかいう奴は、主人公に見向きもしなかった






「ふん・・。」




(この人苦手だ…。)




「おいシマケン~、初対面にしてももう少し違う対応ってのがあるだろ~」




神坂先輩はバシっと矢島先輩の背中を叩く









「矢島先輩とかいかにも授業サボらないってカンジなのに。」





主人公がそう呟くと、矢島先輩の眉毛がピクッと動く



「・・・・なんだと?」




「・・・・っあははは!!

○○ちゃんって素直だな!!
シマケンに面と向かってそんなこと言う子初めてだよ」




近藤先輩は腹をかかえて笑う



「コイツは超エリートだから勉強しなくても出来るやつなんだよ。金持ちだしね!!それにいいなず・・」



そう神坂先輩が言いかけた時、矢島先輩が




「おいっ神坂。
どこまで喋る気だよ。


早く行くぞ」



そう言ってスタスタ歩きだした





「悪い、先二人で食堂行っといてくれない?すぐ追いかける」



神坂先輩はそういうと、二人は軽く頷いて歩き出した





「さて・・・・・・」








「最近風間となにかあったの?」




一番触れてほしくない部分を聞かれ、主人公は黙り込んだ




「昨日アイツに○○ちゃんは?って聞いたらスルーでさ。

昨日のプレーも荒かったし、喧嘩でもしたんじゃないかって───……」




神坂先輩は心配してくれていた。しかし、主人公はあの時の出来事をまだ誰かに言える余裕がなかった




「・・・・すいません。


詳しくは今は言えないんですけど、私が風間くんを傷つけたのは確かです・・。」




「・・・・・そっか。



何があったかはわからないけど、俺は○○ちゃんの味方だから」





そう笑顔で言うと、神坂先輩は主人公の背中をポンっと押して



「風間なら、4階の非常階段前で友達といたよ。早く行ってあげなよ」





そう言われ、主人公は少しだけ恐怖心が押し寄せたが、風間がいる場所へ歩いていった






歩いていると、アキラの声が聞こえる





「聞いたぜ瞬 大翔から」




ハッと自然と足を止めて身を隠してしまう


こっそりと曲がり角の壁に隠れて、様子を伺う




「おまえそりゃねぇだろ


大翔が○○に惚れてたこと知ってただろ?」




「知ってたよ」




平然と言う伊吹





「知ってたじゃねーよおまえ・・・



俺でも親友の女はとんねーぞ」




アキラは少し呆れ気味で頭をかく





「大翔には悪いとおもってる」






大翔は壁にもたれ掛かりながら、ただ黙って腕を組み、伊吹を見つめている





「悪いと思ってんならすんなよなあ


渚がダメなら○○ってこともねーだろ」






(どうしよう・・・私のせいで・・・)


主人公の顔は青ざめていた






「だいたいおまえ────」



「もういい アキラ」




大翔が口を開いた





「大翔」









「瞬 おまえはもう親友でもなんでもねぇ





ただの裏切り者だ」





冷たい表情で、伊吹に言い放つ大翔





「おまえはもう 仲間じゃねえっ!!!」







(うそ……!!!)




主人公は衝撃的な場面にここへ来た目的すら忘れてただ呆然と立ちつくす





「行くぞ」



大翔はこちらへ向かってあるいてくる




「ちょっと頭冷やせ、瞬」


アキラも困ったように伊吹に言う






(どうしよう
どうしよう




こっちに来る…




あ…あやまらなきゃ)






大翔の視界に主人公が入る



「か・・・かざ・・・」





話しかけようとしたが、大翔はあたかもそこらへんにあるゴミ箱でも見るように主人公を無視してスッと横切って行ってしまった





(──────……)




主人公が後ろを振り返ると、アキラと大翔は振り返りもせず、歩いていった






いつのまにか伊吹もいなくなっていた






チャイムが鳴り、主人公はあわてて教室へ走った








伊吹は2限目にでていなかった




(どこ行ったんだろ・・・)





栄子もいない

大翔とアキラは見向きもしない



こんなに授業が長く感じられたのは初めてというほど、主人公は一人落ち着かないでいた



手はいつのまにか汗で濡れていた





──────昼休み



チャイムが鳴ると同時に主人公は一人で食堂へ走り、おにぎりやパンをたくさん買って、伊吹に電話した






【こちらはNTTド○モです。おかけになった電話は電波の──…】




ピッ










「でない・・・



どこだろ・・」










主人公はカンで室内プールへと向かった








────────室内プール





パシャ パシャ・・


水しぶきの音がする





(もしかして───・・・・)





そう思い、2階の観客席から窓越しにプールを見ると、それは伊吹だった






「やっぱり・・・・・」





マイペースというか自由というか・・・少し笑って主人公は1階のプールへ降りていった







伊吹が水中から顔を出すと、主人公はタオルを差し出した





「びびった・・・・」




伊吹は驚いた顔でタオルを受け取る






「伊吹くんやっぱり泳ぐの好きなんだね」




「ああ・・・。まだ少し体鈍ってるけどな」





「アメリカ行ってたもんね」




「それより・・・それなに?」




伊吹は主人公がパンパンになったビニール袋に目をやる




「一緒にご飯たべない?」





「買いすぎ」



伊吹はふっと笑い、プールから上がると、シャワーを浴びにいった






「更衣室で待ってて」





「こっ・・・更衣室!?



だ・・・誰かきたら・・」




「昼休みに泳ぐやつなんていねーよ。」





主人公は少し緊張気味に更衣室へ入る




「さすがスポーツ校だなあ・・・プールだけじゃなく更衣室も広いし綺麗・・・」





主人公が更衣室をキョロキョロと見渡していると、ふとさっきの光景が蘇る





(伊吹くん



普通だったな・・・)




その時伊吹がバスタオルを羽織った姿で入ってきた






「・・・・じゃあ~ん!!

これね、限定10個の幻焼き肉ライスバーガー!!ダッシュで買ったんだから!!」



主人公が無理矢理作った笑顔ライスバーガーを袋から取り出して見せる



「・・・・さんきゅ」




主人公の笑顔を見透かしたように見つめる伊吹



「・・・・・・



伊吹くん」



「ん?」





「ご・・・・ごめんね


あたしのせいで」





「─────




なんでおまえが謝るんだよ」











「────だってあたしがあの時河原へ行ってなければ・・・・・・」








伊吹は俯く主人公を見つめ、冷静に答えた





「俺が○○にキスしたいと思ったからしたんだ




○○は悪くない」














「腹も減ったし食べようぜ

何種類あんのコレ」




二人は袋から大量のおにぎりとパンを取り出した






床に広げられたパンやおにぎりを見ながら




「これ、大翔だったら一人で食うぞ。あ、とくにアイツこのおにぎり好きなんだよな」






と瞬は笑った






「そうそう、いっつもこのおにぎり買っては私に食べろって言ってさ~、自分が食べたいやつまで私にくれて・・・・─────っ」










瞬がバッと顔をあげる





「○○…」







主人公は目にいっぱいの涙を溜めていたが、こらえきれず床にたくさんぽたぽたとこぼれ落ちてしまった





「ご・・・・ごめ・・・」









すると伊吹は優しく主人公を引き寄せる







二次元に恋するお年頃-F1070010.jpg


「んとに・・・・泣き虫なやつ」









(キスの罪がこんなに重いとは思わなかった




風間くんに無視されるのがこんなにつらいと思わなかった────……)








塩素の香りとバスタオルから香る洗剤の優しい香りに包まれながら主人公は伊吹の温かさを感じていた