唇が離れていき、主人公はゆっくりと目を開けた


伊吹は優しく主人公を見つめる





(頭のシンがしびれてる



心臓が爆発しちゃいそう─────……)





朦朧とする意識の中で、伊吹が優しく主人公を抱きしめる






「細いな・・・強く抱きしめたら折れそうだ・・」




主人公もぎゅっと伊吹を抱きしめ返す










「もういい─…どうなったって…」









まるで時が止まったかのように錯覚してしまう




初夏の夕暮れ
二人を夕日が照らす









しかしそんな時間は脆く崩れ去った







伊吹がふと前に目をやる






















「────っ・・・



大翔……」









(え… ?)






主人公が慌てて伊吹から離れるとそこにはまるで感情のない人形のように大翔が呆然と二人を見ていた






血の気がサッと引いて一瞬にして現実に引き戻された









「・・・・・そういうことか」







大翔は頭に手をやり一人で納得するかのように笑う





「は・・・




そういうことだったのか」












「あ・・・・・・」



主人公の顔は青ざめ肩が自然とカタカタと震えていた



額から冷たい滴が落ちてくることすら気づかなかった









大翔の握っていた拳は震えていた











次の瞬間






ガ・・ッ───…



大翔は伊吹を渾身の力で殴りつけた







「きゃああ」






主人公は両手で頭を抱えしゃがみこんだ









ガクガクと震える唇



大翔は何も言わず、主人公のほうを見向きもせずに去っていく











「ま・・・・・・




まって








まって風間くん」







必死で震える足を起こし、大翔を追いかける





少しの距離なのに思うように近づけない





必死で主人公は引き留める




「まって





聞いておねがい!!!」








すると大翔は後ろを向いたまま立ち止まった








「いまさら何を聞けって言うんだよ」









「・・・・俺はおまえを好きだといった





精一杯の気持ちをささげた」








大翔がゆっくり主人公の方に顔を向ける







「────おまえはその気持ちを









ズタズタに引き裂いてくれたよ────……」







今にも泣き出してしまうんじゃないか──…それくらい切ない大翔の顔に主人公は胸が張り裂けそうになった








「あっ・・・・





ごめ・・・




わたし・・・」





ゆっくり大翔に近づいて大翔に触れようとする










「…───っさわるなっっ」





(ビクッ………)


思わず出した手を引っ込める




今目の前にいる大翔はいつもの主人公が知っている大翔ではなかった






今目の前にいる大翔はまるで他人のような冷たい目をしている




肩が怒りで震えていたが冷静に大翔は呟いた









「今までのことは全部白紙に戻してやる・・・・







もう







俺に一切話しかけるな」












そう言うと大翔は静かに主人公の横をすれ違って去っていった








主人公はぺたりと床にしゃがみ込んだ。
目の前は滲み、グシャグシャになった顔でずっと俯いていた








(傷つけるつもりじゃなかったの・・・・・・・








こんなことになるなんて






こんなことに─────……)















────────主人公は結局一睡も出来ないまま、朝を迎えた



(頭・・・痛い・・・)



昨日で人生の半分以上の涙を費やしてしまっていたため主人公の目はパンパンに腫れ上がっていた




制服には着替えたものの、どうしても学校に行く気にはなれなかったので、主人公は一人また河原へ向かっていた










河原へ行くと、昨日の光景が蘇る




(伊吹くんは悪くない





中途半端な私がダメだったんだ────…)




また考え出すと止まらない涙






すると携帯のバイブが鳴り、スカートのポケットから取り出した





【メール受信 伊吹 瞬】






(伊吹くんだ──……)





霞ながらもゆっくりと鮮明に見えてくる景色を認識しようと必死で目を擦る。





【河原?】







ゆっくりと返信を打つ




【うん】







そう送り、パチンと携帯を閉じて仰向けに寝ころんだ







「はぁ」











すると、視界が急に暗くなる





「いた」








伊吹が主人公の頭の上に立って見下ろしていたので、慌てて起き上がった





「目、腫れすぎ」


伊吹はふっと笑い、主人公の横に座った





「へへ・・・・」




うまく笑えない主人公の顔を見つめる伊吹





「ふるえてる」








「あ・・・・



ほんとだ・・・」




気づけばなぜか主人公の手は震えていた







「おかしいな・・・・」





ごまかそうとすると、伊吹の手を主人公の手の上に重ねた







「・・・・・・・・!」




「大丈夫だよ」












「俺がいるよ」







その言葉を聞いた瞬間、自然とぽたぽたととめどなく涙が流れる




(ひんやりとしたつめたい手・・・・






風間君の体温の高い手とはちがう伊吹くんの手・・・・・・













あたしは・・・・・・・







この手を選んでしまったんだ・・・・・・・・・)






伊吹は主人公の手を重ねたまま、ただまっすぐ川を眺めている





主人公は瞳を閉じた

瞳からは涙の雫が落ちていく









(もう二度と










風間くんの笑顔は見られないんだ・・・・・・・)






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