【迫力の1冊】「棟梁」小川三夫・塩野米松(聞き書き)
棟梁:小川三夫
リアル書店をぶらついていると、ひときわ異彩を放つ本に出会うことはないですか?
そして、書店にくるまでまったく目当てではなかったその本を手にして、レジに並んでいることがありませんか?
けして、装丁が派手だとかトレンドであるわけではなく、どちらかといえば非常に地味で硬派な
「売る気あるのかな。」とも思えるような表紙だったりします。
しかし、足をとめて、つい手にとってしまう迫力と魅力があるのです。
今回ご紹介する本はそういった類の本です。
数ページめくって、心をわしづかみにされた本です。
大工の棟梁の話を聞き書きした内容なので、泥臭い部分がたぶんにあり
スマートなビジネスマンを目指している方には多分読んでもらえなそうな本です。
もちろん、最近流行のHACKや具体的な方法はほとんど書かれていません。
ですからそういったHowToを知りたい方には向いていないでしょう。
しかし、リーダーを目指す全ての人が持っておくべき「魂」が書かれています。
【この本を読んだ目的】
リーダーが、プロフェッショナルが、持っておくべき「魂」を知りたい
【「小川三夫」さんとは】
昭和22(1947)年、栃木県生まれ。
高校生のとき修学旅行で法隆寺を見て感激し、宮大工を志す。
21歳のときに法隆寺宮大工の西岡常一棟梁に入門。唯一の内弟子となる。
法輪時三重塔、薬師寺西塔、金堂の再建では副棟梁を務める。
昭和52年、独自の徒弟制度による寺社建築会社「鵤工舎」を設立。
平成15年、「現代の名工」に選ばれる。
平成19年、設立30周年を機に棟梁の地位を後進に譲り、引退する。
(本書著者略歴より)
【気づきポイント】
棟梁としての役目は、いくつかの業種の職人達に上手に、気持ちよく仕事をやってもらうことや。それと、依頼して下さる施主さんに満足してもらうことだな。
早く言葉というもんから離れないと、頭も体もいうことをきかんぞ
やる前に考えて、できねえと思うようなやつは、職人としては使えねえで
それは小さな体験からはみ出せねえっていうことだ
後でわかるんだが、修行はそうやってただただ浸りきることが大事なんだな。
寝ても覚めても、そのことしか考えない時期を作ることや
ものを教わる、覚えるために一番大事なことは、素直なことや
自分で柱を担ぎ、その重さや手触りを知ったから、部材を見ただけで、仕上げるのにどのくらい手間がかかるか、職人が何人必要か、どの手順でやったら無駄がないか、すっと頭に入ってくるからな
自信があって行くんやったら、おもしろくないやろ。やれと言われたから、はいと言ったまでだ。
任せられるとは、そういうことや
やれるか、やれないかは考えんでいいのや
やる方法を考えるんだ
棟梁からの恩は、弟子に返すんやな。それが務めや
ところが、この任せるというのが大事なことなんだな
それは大きな自信になるやろな。若い者も自分達だけでやったんだから。
無理じゃないかと思っていたものができていくんで、力がでるんだ。
育つということはそういうことや
一緒に仕事をしていくには、やさしさと思いやりがないと無理や
きびきびして無駄のない現場には活気があって、どこか余裕があって、楽しげで、共通の雰囲気があるんだな
任せる時期が遅かったら人は腐るで
家がひとつでずっと繋がるよりは、ある程度よその血と交流しながら、また元に戻ってくるほうがいい。
細く純潔を守るよりは交流しているほうがずっと健康的で絶対いいな
喜んでもらえるということが、良い仕事をする後押しをするわけだ
辛いから嫌だ。難しいからやれない。
そんな気持ちでは大きな仕事にぶつかったときに乗り越えられないよ。
それでは一人前とは言えない
どんな仕事だってやってみれば、どこかにおもしろさがある
器用な人は器用に溺れやすい
触っても、見てもわかるが、切れる刃物で削った木の表面というのは輝いている
できないと言った人たちは台鉋(だいがんな)でこんな物ができるとか、そこの丸い鉋でやったってこなものはできないっていうふうに、自分の技量と持っている道具から「できる・できない」を考えるやろ
その程度の技術しか、技しか習得してきてないと思うんだ
叱るときは、気づいたときにその場で素直に言ってやることや。小利口に後になってとかいうのではあかん。
一番染みこむのは失敗したその時や
俺が建物を自信を持って造れるのは、でき上がる建物を空中に描けるからや
道具がなけりゃ、ないなりに動かすことを考えるんだよ。
考えなくちゃだめだよ。
それも、自分の技能の枠で考えるだけではだめなんだな
今の子どもは、学校で教わってきたことしかできないな。
教えてくれねえからわからねえというのでは、とてもとても何も任せられねわ
で、失敗したら、「俺は、知んなかった」って。
そんなのはあきれてものを言えねえやんか。
責任というのは失敗したときにわかるんだ。
そのときの態度が大事なんだ
行動しながら修正していく。修正の仕方がきちっとした人がいちばんだな。
だから若い子には掃除をさせるんや。
掃除、片付けをしてたら、動きながら考えるというのがわかってくるもんや
人間にも社会にも言えることや。芯を決めて使うというのがなくなった。
面のいいやつだけ集める。同じ規格を集める。
これでは癖のあるやつははじかれる。
癖を生かしてやれば、おもしろい物ができるのに、そういうのは捨ててしまうんだな。
組織は一度は栄える。しかし必ず腐り始める。
いつまでも俺が棟梁ではあかん
一番腐るのは上に乗ってるリーダーからや
今度は俺が席を譲る番や
棟梁:小川三夫