健康診断の触診で甲状腺腫大を指摘され、精密検査を勧められたという患者さんがたくさん来院されます。以前にも書きましたが、実際には甲状腺は腫れていないということがほとんどです。もし私が健康診断の担当医だったら、「要精密検査」にはしないだろうという方がかなり多いということです。

 

 

 しかしながら、甲状腺は腫れてはいないのに、甲状腺の病気が見つかったという3名の患者さんを経験しました(年齢等は実際とは少し変えています)。

 

 

①健康診断で甲状腺が腫れていると言われた10歳代後半の女性

 私の触診上、甲状腺腫大はないと判断。日常生活で困っている症状は全くなく、元気に過ごしている。私が健診を担当していたら精密検査には回さないだろう。検査をするかどうか相談し、超音波検査だけはやってみることに。するとやはり甲状腺腫大はない。ただし、内部の様子が通常と異なる。慢性甲状腺炎(橋本病)やバセドウ病でみられる所見である。そこで血液検査を追加すると、甲状腺ホルモン高値、TSHレセプター抗体高値、バセドウ病と診断、治療を開始した。

 

 

②健康診断で甲状腺が腫れていると言われた20歳代の女性

 私の触診上、甲状腺腫大はないと判断。しかし体のむくみや寒がりで困っている。そこで血液検査と超音波検査を行ったところ、慢性甲状腺炎(橋本病)による甲状腺機能低下症と診断。超音波検査上は、やはり甲状腺腫大はなかったが、①同様に内部の様子が通常と異なる所見だった。甲状腺ホルモン補充療法を開始した。

 

 

③健康診断で甲状腺が腫れていると言われた30歳代の女性

 私の触診上、甲状腺腫大はないと判断。しかし、①②の経験から一度は検査すべきだろうと思い、血液検査、超音波検査を行った。すると甲状腺内に明らかに形の悪い腫瘍が見つかり、甲状腺乳頭癌と診断された。超音波検査上、腫瘍は完全に甲状腺内なので、触診では見つからない腫瘍である。1cmを超える腫瘍のため、他院に手術を依頼した。

 

 

 健診が役に立った事例でした。