甲状腺の病気で薬を服用しなければならない場合、多くは長期間の服用が必要です。甲状腺機能低下症やバセドウ病は、長期内服が必要な代表的な病気です。これらの治療薬は、医療機関を受診して診察を受けなければ手に入れることはできません。薬局で普通に購入できる国もありますが、日本では医師が発行した処方箋が必要です。

 

 医療機関への受診は待ち時間が長いことが多いので、できるだけ長い期間分の処方をしてもらえたら受診の頻度を減らすことができて、患者さんにとっては大変メリットになります。

 

「もっと長く薬を出してくれませんか」

「Aクリニックでは2ヵ月分処方してくれたのに、B医院では1ヵ月分しか処方できないと言われた」

「少し余分に処方してくれませんか」

 治療が長期間に及ぶ方は、これらのことを言った経験がありませんか?

 

 さて処方日数はどのようにして決めているのでしょうか。これはもちろん診察した医師の判断になります。病状が変わりやすいのでこまめに診察をしなければならないと判断すれば、処方は短期間にとどめます。一方、病状が安定していれば、より長期間の処方でもよいと判断します。医師の判断ですから、新たにかかった医療機関で、「前にかかっていた病院と同じくらい長期間分を出してください」と言っても、その主張は通りません。

 

 では処方日数はどれくらいまで延ばすことができるのでしょうか。3ヵ月までと思っている方も多いのではないでしょうか。実は上限はありません。ただし一部の薬(麻薬、向精神薬、新しく発売されたばかりの薬など)は上限が決まっています。分かりやすいところでは、いわゆる「睡眠剤」や「安定剤」の一部は上限が決まっています。その他の多くの薬では、原則として上限はありません。ですから1年分の薬を処方することも可能ではあります。ただし、1年分処方する医師はまずいません。1年間同じ薬で大丈夫とはさすがに判断できないからです。また、薬の使用期限の問題もあるので、あまり長くは処方しません。甲状腺疾患の場合ですが、病状にもよりますが、安定してしまえば3~6ヵ月ごとの通院、検査、処方でよいと考えます。

 

 最近オンライン診療を取り入れる医療機関も増えてきました。オンラインで診察を受け、薬の処方もしてもらえる仕組みです。甲状腺疾患についてはオンライン診療は不向きです。なぜなら甲状腺疾患で内服中の患者さんは、血液検査が必須だからです。実際、私のクリニックを受診される方のほとんどが血液検査を受けています。次回、血液検査が必要なタイミングまでの期間、間に合うように処方をしていますので、処方のためだけに受診されることはほとんどありません。