慢性甲状腺炎(橋本病)と甲状腺機能低下症が同じことだと思っている方がかなり多くいるようです。

 

 慢性甲状腺炎(橋本病)は病名です。甲状腺機能低下症は甲状腺の働きが低下しているという状態を表しています。

 

 慢性甲状腺炎(橋本病)のほとんどの方は甲状腺の働きは正常(甲状腺機能正常)です。ホルモンが正常であれば、特に症状は出現しません。一部の方で甲状腺の働きが低下(甲状腺機能低下症)してホルモン不足が生じると、低下症の症状が出現することがあります(全くの無症状ということもまれではありません)。その場合、甲状腺ホルモン剤による補充療法が必要になります。

 

 慢性甲状腺炎(橋本病)では時に無痛性甲状腺炎を発症することがあります。甲状腺に蓄えられているホルモンが血液中に漏れ出し、一時的に甲状腺ホルモン過剰な状態(甲状腺中毒症)になります。これを無痛性甲状腺炎といいます。

 

 以上のように、多くの慢性甲状腺炎(橋本病)の方は甲状腺機能が正常な状態で経過しますが、機能低下で治療が必要になったり、時にはホルモンが過剰になったりする場合があります。甲状腺ホルモン値としては、正常、低値、高値のいずれにもなりうるということです。決して「橋本病=甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモン低値)」ではありませんのでご注意ください。

 

 しかし「橋本病=甲状腺機能低下症」と思っている方が相当多くいるようです。それはなぜなのか。最近はインターネットで自分の症状を検索して、甲状腺の病気ではないかと受診される方が多いです。もしかすると「慢性甲状腺炎(橋本病)になると甲状腺機能低下症の症状が出る」などと間違った情報が書かれているのではないか。ちょっとだけ検索してみました。

 

 Googleで単純に「橋本病」と検索すると、甲状腺で有名な病院やクリニックが慢性甲状腺炎(橋本病)の解説をしているページが出てきます。これらのページには当然ですが間違ったことは書かれていません。慢性甲状腺炎(橋本病)の方が甲状腺機能低下症になると症状が出現することがある、と書かれています。

 

 一方で、某病院グループのページで、セルフチェック「橋本病チェック」というのを見つけました。甲状腺機能低下症の症状が書かれていて、このような症状がありますか?という質問に回答していき、当てはまる項目が多いと「橋本病の疑いがあります」と判定されます。こういうのが誤解を招くのでしょう。タイトル「甲状腺機能低下症チェック」、判定結果「甲状腺機能低下症の疑いがあります」なら正しいのですが、「橋本病」としてしまうのは明らかな間違いです。

 

 このほかにも不適切と思われる表現をしているページは複数あります。特に説明の中で、「橋本病の症状」という項目を設けている場合は注意が必要です。

 

 検索の上位に挙がってきているページを読むと、ほとんどはきちんとした説明がなされており、しっかり読めば「橋本病=甲状腺機能低下症」とはならないはずです。運悪く不適切な解説にたどり着いてしまうと、「橋本病=甲状腺機能低下症」と思ってしまうのかもしれません。そして一度そのように覚えてしまうと、なかなか訂正できません。

 

 どれが不適切な解説なのかは、一般の方にはわかりません。いろいろ検索したくなる気持ちは分かりますが、患者数が多い有名な専門施設のページのみを参考にするといいと思います。