最近、甲状腺関連の薬を個人輸入して服用している方がまた来院されたので、改めてどんな薬を入手できるのか調べてみました。すると国内で使用されているほぼすべての薬を入手できそうだと分かりました。

 

 甲状腺機能低下症でみられる症状に当てはまるといって、チラーヂン®Sを購入して内服を開始した方がいました。本来は甲状腺機能低下症になっていることを確認してから治療を始めなければなりません。実際には甲状腺機能正常なのにも関わらず、自己判断で内服を始めてしまうと、内服量によっては甲状腺ホルモン過剰となってしまうかもしれません。

 

 甲状腺中毒症の症状にぴったり当てはまるといって、メルカゾール®の服用を始める方がいます。以前にも書きましたが、メルカゾール®を個人輸入して服用することは絶対にやめましょう。添付文書には「警告」として死亡例の報告があるので注意するようにと書かれています。そんな薬を自分の判断で、しかも検査もせずに使用してはいけません。プロパジール®、チウラジール®も同様です。特にこの二つの薬には、副作用として重症肝機能障害の報告があります。

 

 などというと、バセドウ病と診断された方は薬を飲みたくなくなってしまうかもしれません。しかし、注意事項を守り、定期的な検査をしながら副作用チェックを厳密に行えば、安全に使用できます。

 

 チロナミン®という薬があります。チロナミン®はT3製剤であり、原則として特殊な状況(検査の前処置や一時的な補充療法など)でしか使用しません。当院では処方実績はありません。大きな専門病院や大学病院などでは使用することがあるでしょう。このような薬も自分の判断で購入できるようです。

 

 個人輸入のサイトには、「医師の指導の下、使用するように」、「医師に相談してください」、「医師の指示に従ってください」などの注意書きが出ています。自己責任ですから、個人輸入した薬の使用について、我々が指示を出すことはありません(とは言っても結局は指示を出さざるを得ないのですが)。唯一指示を出すとすれば、「直ちにやめるように!」くらいでしょう。

 

 甲状腺関連の薬を個人輸入で入手しても悪くはないと思われるのは、ヨウ化カリウムでしょうか(推奨しているわけではありません。「悪くない」というのは、1回飲むくらいなら副作用(ヨウ素過敏症を除く)も健康被害などもほぼないからです。)。主に甲状腺中毒症に使用されますが、放射線による甲状腺被ばくの軽減に有効性があるとのことで、原発事故による甲状腺被ばくを防ぐ目的で使用されることがあります。ただし、必要な分は原発に近い自治体が備蓄しているようですので、個人で準備する必要はないでしょう。

 

(追記)ヨウ化カリウムは、毎日飲んでしまうと甲状腺機能低下症になることがあります。甲状腺機能を調節する目的での個人輸入はやめましょう。