甲状腺全摘術の合併症の一つに、副甲状腺機能低下症があります(以前書いた記事がいくつかありますので、「副甲状腺機能低下症」で検索してみてください)。

 

 甲状腺のすぐ近くにある副甲状腺が甲状腺とともに切除されてしまうと、副甲状腺ホルモンの分泌が低下し、血液中のカルシウムが低下してしまいます。血中カルシウムが低下する(低カルシウム血症)と、手足や顔などのしびれ感が出現します。症状がひどくなると手がこわばってしまい、箸が持てずに食事ができなかった、筆記用具が持てずに字をかけなかった、などという方もいます。

 

 低カルシウム血症の治療薬は活性型ビタミンD製剤とカルシウム薬です。活性型ビタミンD製剤はカルシムの吸収を良くする薬であり、カルシウム薬と併用することで血中カルシウムを改善する効果が高まります。

 

 活性型ビタミンD製剤にはいくつかの種類がありますが、「アルファカルシドール」が使われることが多いと思います。カルシウム製剤にも複数の種類がありますが、特に術後早期にはカルシウムの含有量が多い「乳酸カルシウム」が使われます。

 

 一過性の副甲状腺機能低下症であれば、いずれ薬は中止できますが、永続性の場合は薬をずっと飲まなくてはなりません。では活性型ビタミンD製剤とカルシウム薬の両方をずっと飲まなくてはならないのかというと、必ずしもそうではありません。多くの場合、活性型ビタミンD製剤のみでコントロールできます。

 

 術後早期から低カルシウム血症は起こるので、これらの薬は入院中に処方されます。低カルシウム血症によるしびれがなくても、症状出現防止のために出されることもあるようです。ときどき見かけるのが、術後何年たってもずっと薬を飲み続けている患者さんです。もちろん症状や血液検査の結果を見ながら内服中止を試みて、中止できないと判断されたのなら継続で問題ないのですが、一度も減らされることなくずっと処方され続けている場合があります。このような患者さんを診察したとき、私は積極的に内服量を減量していきます。まずはカルシウム薬の中止が目標です。中止してカルシウムが低下してしまうときは、活性型ビタミンD製剤を増量します。うまくカルシウム薬が中止できたら、その次は活性型ビタミンD製剤の減量、中止です。活性型ビタミンD製剤のみで調節できることが多く、完全に中止できることもありますので、一度も減量されたことがない方は相談してみてはいかがでしょうか。