反回神経が腫瘍に完全に巻き込まれているにもかかわらず、神経は麻痺していない場合があります。その場合、どのように対処するでしょうか。ここで甲状腺がんの性質が重要となります。

 

 このような場面は、ほとんどが乳頭癌です。乳頭癌の場合は、腫瘍を崩してでも神経を温存することがあります。

 

 悪性腫瘍の手術では、腫瘍を摘出するときには、腫瘍を一塊で切除するのが原則です。腫瘍を崩してしまうと、腫瘍細胞がこぼれて体内に残り、そこから再発してしまうからです。

 

 乳頭癌(通常型)はとてもおとなしい性質であることは何度も記事にしていますので、みなさんお分かりだと思います。乳頭癌の場合は、たとえ腫瘍が微量残ったとしても神経を温存したほうが、患者さんにとってはメリットになります。腫瘍が残存したとしても、ごくわずかであれば、ほとんど再発してこないのです(ここで言うわずかというのは顕微鏡レベルのことであり、肉眼では腫瘍は見えないくらいのことです)。腫瘍を崩すような手術操作による温存では、神経は一時的には麻痺してしまうと思いますが、適切な温存術ができれば多くの場合回復します。この手技は、やはり専門医が得意とするところです。

 

 ただし、悪性度の高い未分化癌や低分化癌などでは、このような手技は行いません。腫瘍が残存したら再発の危険性が高いからです。