政府軍の要衝撤退で対話が進むか | 明日へのトレイン-season2-

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18日、ウクライナのポロシェンコ大統領は東部ドネツク州でデバリツェボで親ロシア派(ドネツク人民共和国)の武装組織に包囲されていた政府軍に全面撤退 を命じた。これを受け、デバリツェボは親露派が占拠する見通しとなった。デバリツェボは今年1月下旬ごろに親露派武装組織に包囲され、5000人以上の政 府軍兵士が孤立していた。
今回の事態を受け、ウクライナ政府や欧州各国,NATO(北大西洋条約機構)などからは12日の停戦合意に違反するとの批判が出ている一方、親露派は重要 都市の占拠が完了したことにより大規模な軍事行動を控えるとみられ、本格的な停戦につながる可能性もある。ロシア外務省ラブロフ外相は18日アメリカ国務 省ケリー長官と電話会談し、ウクライナ政府には憲法を改正し、ドネツク州とルガンスク州に「特別の地位」強力な自治権を与える義務があると主張した。
ポロシェンコ大統領は政府軍について、「撤退は計画的かつ組織的に行われ、政府軍の全部隊は戦車や大砲などの兵器を放棄せずにデバリツェボを離れた」と語 り、今回の撤退はあくまでも先の停戦合意に基づく自らの意思による撤退だと強調した。しかし、現地では今週に入り、政府軍兵士の間で投降する動きが広がっ ていた。BBCは今回の政府軍の撤退を「屈辱的な敗退」と表現し、「政府軍は各部隊とも弾薬等が枯渇しており、撤退は事実上の敗走だ」というデバリツェボ を逃れてきた兵士のコメントを紹介した。
デバリツェボはウクライナ東部の親露派組織が支配するドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の拠点都市をつなぐ鉄道の結節点に位置する交通の要衝であ り、ウクライナ政府軍が死守してきた。今回の政府軍撤退は事実上の陥落であり、ウクライナ政府にとって大きなダメージとなった。
ウクライナでは昨年4月に始まった東部地域を巡る戦闘が始まって以降、既に少なくとも5500人以上の紛争死者を出している。今月12日にはカザフスタン 首都ミンスクでウクライナ,ロシア,フランス,ドイツの4か国首脳によって停戦合意が行われた。しかし、ロシアの影響力を排除したいウクライナ政府とロシ ア系住民が多いウクライナ東部の州の自治権を強化する憲法改正を求めるロシア政府との立場の違いは大きく、紛争解決の見通しはついていない。
このウクライナ内戦の発端は2013年11月に遡る。2013年11月、東部出身のヤヌコビッチ大統領は東部地域に大きな経済的影響力を持つロシアに配慮 し、期限を迎えていた欧州連合(EU)との政治・貿易協定の調印を見送った。しかし、これに強く反発した親欧米派や民族主義政党などの野党勢力が反政府運 動を開始した。2014年1月頃より反政府運動はさらに激化し、ロシアへの対抗を掲げる極右系団体が主導するグループが武力抵抗を辞さない抗議活動を開始 した。これを制圧しようとしたヤヌコビッチ政権が投入した治安部隊との衝突に発展し、双方に死者が発生。首都キエフ周辺ではロシア系住民が極右派支持者に 殺害され、ウクライナ国内の親欧米派の国民と親ロシア派の国民の間で大きな対立が生じた。2月22日にはヤヌコビッチ氏がキエフを逃れ行方をくらませた。 ウクライナ議会はヤヌコビッチ氏を大統領職から解任し大統領選の繰り上げ実施を決議した上で親欧米派の大統領代行と首相を指名し暫定政権を発足させた。こ の事態にロシアはロシア系住民の保護を名目にクリミア半島への軍事介入を行い、クリミアの独立およびロシア編入を承認した。さらに、ウクライナ東部のロシ ア語を話すロシア系住民が多いドネツク州などでは暫定政権を認めない住民が暫定政権を支持する住民と衝突し、州庁舎や警察機関などを掌握した。この頃か ら、ロシア系住民を中心にクリミア半島と同じく独立ロシア編入を目指す動きが広がった。2014年4月、キエフの暫定政権側が反暫定政権側の分離独立派勢 力をテロリストとみなし、テロリスト掃討作戦と称する軍事行動を開始した。この軍事行動が今日まで続き、ウクライナ政府軍と親露派組織との戦闘が続いてい る。
この紛争が長期化している原因は西部でウクライナ民族主義派を支持する住民にある。ウクライナのポロシェンコ大統領は自身が当選した2014年5月の大統 領選挙で東西の住民同士の融和、親欧米か親露かで対立した2000年代の政治との決別を訴えた。ロシア語の使用を保障し、政権には東部地域出身の指導者を 登用するなどロシア系住民への配慮も掲げていた。しかし、就任後は西部地域の民族主義派に配慮し、親露派に対して強硬な姿勢を取っている。特に昨年10月 に行われた議会選で民族主義派「人民戦線」が予想を上回る21パーセントの票を獲得して以降、この傾向が強くなっている。民族主義派は東部地域の自治権拡 大だけでなく、東部地域の住民の主張を部分的に認めた停戦合意自体を認めておらず、あくまでもテロリストを掃討すべきと主張している。今回のデバリツェボ 撤退を巡ってもポロシェンコ大統領が民族主義派からの突き上げにあう可能性が高い。ポロシェンコ大統領がいかに民族主義派の反発を抑えることができるかが 停戦の継続と紛争解決のカギとなる。欧米もウクライナの国民間の内情を見極めつつウクライナ政府が要求するEU加盟やNATO加盟を慎重に検討すべきであ る。ウクライナを欧米の影響下に取り込もうとするばかりにウクライナを分裂させてはならない。
ウクライナの東西対立は長期化すればするほど、激化すればするほど解消への道が遠のく。東部地域の住民は政府軍による軍事作戦が激しくなればなるほど政府 や深奥系住民への反発を強め要求する条件が高くなる一方、西部地域の住民も対抗して合意のハードルを引き上げてしまう。これでは事態はエスカレートするの みである。4か国の首脳が指導力を発揮し、対立の種を取り除くことができなければ、ウクライナ東部が恒久的に事実上の独立国家となってしまいかねない。今 回の政府軍の撤退は、まず双方が話し合いのテーブルに着く環境をつくる意味では良かったのではないだろうか。今後の和平に期待したい。