
地震と文明5-位置エネルギー
エネルギー資源
という意味でとらえるため
位置エネルギー
としましたが、
要するに
「高度差」利用
のことであります。
ここで位置エネルギーとは、重力による位置エネルギーのことです。
ですから重力エネルギーと言うこともできます。
すでに文明の発達した現代では、
私たち人類は
平地でさえ、集合住宅の給水システムに高度差(重力)を利用し、
また平地を流れる大河からは低落差発電で電気をとりだします。
そんなことが可能なのは、さまざまな科学技術の発達とともに、
「高度差」
つまり「重力」というものの利用価値と利用方法を古くから知っているからです。
今では当たり前の存在になっていて気がつかないくらいです。
では
私たち人類が
初めて「高度差」を利用したとき、
それはどんな場所だったでしょうか?
地震多発地帯はプレート境界です。
陸域なら、たいていの場合そこに造山帯が形成されます。つまり急峻な
「山」
の存在があります。
高度差を作り出すのは山です。あるいは土地の隆起運動です。
そして地震の多いプレート境界は、険しい山のあるところとであり、隆起や沈降など激しい地殻変動で土地に高低差を生じさせている場所です。
もちろん
地震が少ない地域でも山があれば高度差利用が可能です。アパラチア山脈に沿う滝線都市がその実例になります。しかしアパラチア山脈も古生代の造山帯なのでその当時は険しい山脈で地震多発地帯だったことが想像されます。
キーワードは山です。
こういう地形条件が
文明とどう結びつくか考えるとき、
正反対を考えるとよくわかります。
コンゴ盆地
アマゾン低地
ガンジス川河口
低湿地のような
土地の起伏が少ない地域を対局として考えてみます。
こういう地域では
たとえ水が存在しても
効果的に流すことができないので、
水害対策や都市の給排水などの治水・利水に不利であることが予想されます。
そして洋の東西を問わず、治水・利水は権力者に課せられる任務です。
初期人類の住居である横穴式住居も
崖や斜面の洞窟を利用したものだから
平地には作りようがありません。段丘があれば話は別ですが、段丘も完新世のものは地殻変動の賜物です。
水力発電も水車も
水位差が無ければ使えません。
スキーも山でないとできません。
人類はマンモスなど自分よりも大きな大型動物を狩猟してきましたが、
崖に追いつめて落とすという狩りはよく紹介されます。
崖を利用した狩猟などは高度差の全くない低地ではあり得ません。
位置エネルギーすなわち重力エネルギー利用の条件は
崖、斜面、坂などの高度差です。
造山帯はこの環境を提供します。
文明の視点でみるならば、都市の給排水は最重要です。生活と生存に直接関わるからです。人口の集中する集落にはまず最初に集落を貫く一本の水路が必要最低限として現れると思われますが、まもなく上下水道の厳格な分離が採用されるはずです。
新鮮な水を上水道に供給したい場合、常に新たな水が上流から供給され続ける流れの速い川が望まれます。
逆サイフォンの原理が発見されその技術が開発されるまでは、すべての点で
高所から低所へ
しか水を流せません。勾配の小さい平地では微妙な高低差を間違えないように水路設計をする難易度がそれだけ高くなってしまいます。
下水道は、衛生上の問題として迅速に排水が行われることが望まれます。汚水が滞留すると腐敗が進むからです。地下深くに暗渠を掘ったとしても、排水先の高度が低くないと流れてくれません。雨季に排水先の川の水位が上がれば汚物が逆流してきますから都市には充分な高度が必要です。ましてや高低差を読み間違えるわけにはゆきません。
平安京に定着するまでの古代日本は頻繁に遷都を繰り返していました。主要な原因は権力闘争だったとはいえ、いくつかの都は都市計画とりわけ下水道の失敗、つまり汚物の氾濫が都市放棄の原因だったそうです。
都市は排水用の川に対してある程度の高度差をつくれる場所に立地したいし、その場所は水源に対してはある程度低くなければなりません。
初期の土建技術および設計技術では、
そういう都合のよい土地を見つけるしかありませんが、
自然がいろいろな高低差からなる地形条件を提供してくれる土地、
すなわち山に近い土地が都市の立地場所として選ばれやすかったとは考えられないでしょうか。
現代において
直接的な位置エネルギー利用としては
水力発電
が代表格ですが、電気に変えるまでもなく水車はもっと古くから使われてきました。
アメリカ合衆国東部、アパラチア山脈沿いの
滝線都市は
水車利用の都市群です。アパラチア山脈は古生代の造山帯です。現在ではすでにプレート境界ではありません。地震活動もたまにしかありません。しかし土地の高度差が都市の発達を促した好例です。
軍事防衛上も地形の高低差は重要です。国土の測量は国軍が担当したり、詳細な地形図や地形情報が軍事機密扱いになる例はあります。
日本でも戦前は地形図は陸軍の陸地測量部管轄でした。
山国信州の上田で徳川軍は真田軍に二度と敗戦しています(1585年、1600年)が、その前にはほぼ同じ場所で武田軍が村上軍に敗北しています(1548年)。
アフガンゲリラは、米ソ両超大国の侵略に抵抗し続けただけでなく、1842年と1919年には大英帝国に勝利しています。
もちろん
このような土地に生まれた政権か強大になるという意味
ではなく、
この地の地形が軍事的要塞として有利という意味です。
第二次大戦末期の日本は本土決戦に備え、山国信州の松代に大本営を築いていました。
敵の侵入や敵地の偵察には高所からの視認が有利で、現代ではその究極として人工衛星からの偵察が達成されていますが、軍事作戦上も高所は有利なのか、
山城や高い崖を利用した難攻不落の要塞は洋の東西を問わず名を馳せるものが多くあります。
険しい地形は防衛側にとって強い味方になりますので山岳地帯に独立勢力が保たれたり軍事強国が出現する例もあります。
古代中国で戦国時代を終わらせたのは内陸に基盤を築いていた秦帝国でしたし、ペルシア高原には長期にわたり大帝国が栄えていました。
人類が利用してきた高度差利用をまとめると
(1)狩猟における仕掛け
(2)都市の給排水システム
(3)農地の灌漑
(4)水力エネルギー
(5)軍事施設、要塞
などが考えられます。
