地震と文明3-鉱産資源

「鉱山」という言葉に「山」が付くことから、鉱産資源はもともと山で得られるものだったことが想像できます。

「鉱物」のことを、単に「石」と呼ぶ人がいます。自然界にあって、ある程度堅い固体の塊を石と呼びます。鉱物のことを単に「石」と呼ぶのは正確ではありませんが分かりやすい言葉の使い方です。


すでに文明の発達した現代では、私たち人類は海底からでさえ鉱産資源を掘り出します。それは大規模な掘削装置の発達にもよりますが、なによりも既に
鉱産資源
というものの価値とその存在場所をだいたい知っているからです。

では
初めて人類が、鉱産資源に出会い、その価値に気付き、利用し始めたのはどんな場所だったでしょうか?


地震多発地帯はプレート境界です。
陸域の場合、大抵そこに大きな山並みが形成されます。
プレート衝突境界の場合、その山並みは土地の隆起によって生じます。隆起が生じるのは二つの地面が互いに向かい合って衝突しているからです。
このようにして生じる山並みは、高度が高いだけでなく、侵食作用との綱引きから、急勾配の斜面を形成します。地面が隆起する一方で、水の流れが高くなった地面を削ったり崩したりしてゆくからです。
急峻な山脈はこのようにして形成されるます。

プレート拡大境界の場合は大規模な火山地域になります。火山が生じるのは、割れた地面を補うように、地下の岩石が溶けてマグマとなって噴出してくるからです。
また日本列島のように、衝突する地面の一方が海底の場合、
隆起による山の形成と、火山とが両方存在する地域になります。
いずれにしてもそこには急峻な

「山」

の存在があります。
キーワードはやはり「山」です。


崖がたくさんある山地や火山地域は、地震多発地帯の一つの典型です。


ところで話は
鉱産資源の話でした。


こういう地形条件が鉱産資源とどう結びつくか考えるとき、
正反対を考えるとよくわかります。

東ヨーロッパ平原
西シベリア低地
アマゾン低地

日本に住んでいるとあまり意識しませんが、
実は平地は一般に

石が存在しません。

河川の運搬する土砂によって形成される堆積平野の場合、
河川が平野部の流速で運搬できるのは砂と泥だけです。堆積平野は砂と泥だけで構成されています。
侵食平野の場合も、一般に風雨にさらされる地表は風化して土壌化していますので、石はある程度地下を掘らないと出てきません。


こういう環境下で

に対する興味関心や、ましてや加工して利用するところまで人間の認識は発達するでしょうか?
加工利用のレベルに達するためには、捨てるほど多くの石が存在している環境が必要です。利用法が発見され、加工方法が発明されるまでに偶然や試行錯誤が必要と思われるからです。

大量の石が存在する条件は、地下の岩石を地表に持ち上げて露出させる自然の現象-つまり

崖の存在

ではないでしょうか。
火山と造山帯はこの環境を提供します。
また火山は噴火活動そのものによっても石を生産して地表にもたらします。

石を使いたいという目的意識があり、かつ地下にそれがあると知っていれば、地面を掘りますが、
石の利用をまだ知らないうちはそのような目的意識を持ちようがありません。だから、最初は
何の努力もなしに周囲に石がたくさん転がっている環境
が必要です。そのような環境が、

で、崖が生じるためには
・山が河川による侵食を受ける
・急峻な山が土砂崩れなどの崩壊を起こす。
・地震時の断層運動
・カルデラの形成
・火山の山体崩壊
などが考えられます。

火山以外の「山」としては、土地の隆起によって生じるものが一般的ですが、隆起が起こるのは日本のようなプレート衝突境界です。
火山の場合はマグマの噴出によって山体を生じますが、溶岩流などマグマの噴出そのものも地表への石の供給になります。
なお、
地震の少ない地域にも
侵食作用によって生じる崖や山(残丘や海岸浸食、
氷河の侵食による崖の形成)
などがあることを附記しておきます。
これらも有力な石の生産源になります。


人類史の流れに即して考えると最初は石器時代です。

Ⅰ.石器時代
人類誕生以来大半の時間は石器時代です。最初に石器が使われはじめた場所を含め、山や崖のある地域で石器の使用が発達した可能性は考えられます。
後期旧石器時代に鋭利な石器として世界的に重宝される黒曜石は火山岩です。
猿人、原人、新人ともアフリカ大陸発祥と言われていますが、現在のところ多くの人類化石は東アフリカ地溝帯に沿う地域から出土しています。ここは火山が多く崖も豊富な地域です。


Ⅱ.金属時代
石器時代の次は、青銅器時代となっています。青銅(ブロンズ)は、銅にスズを混ぜた合金です。そしてその次は鉄器時代です。
人類に鉄器時代をもたらしたヒッタイト王国は、小アジア(アナトリア半島)に生まれました。地震分布図をみると隣のギリシアとともに地震の巣であることがわかります。このことは象徴的です。
鉄は科学技術の発達した現代ではむしろ山の少ない地域で掘っています。古生代のはじまるはるか以前、光合成が始まった頃に放出された酸素が鉄と化合して海底に沈澱した酸化鉄の層がカナダやオーストラリアなどの大規模な鉄鉱床だからです。これらも隆起して陸上にありますが非常に古い時代のことなので現在ではすっかり侵食されて平地になっています。
しかし現在ほど大規模な技術のなかった時代にはやはり崖や斜面の豊富な山で発見され、山を採掘して得るのが自然の成り行きだったと思われます。
石を、単に石器として使うのでなく、そこから有用鉱物を取り出して利用するというのはかなり進んだ認識が必要ですが、、単なる石ではなく、中に含まれる鉱物を発見するためには、いろいろな石を見比べたり、詳細な観察をする必要がないでしょうか。地表にさらされている岩石は表面が風化したり砂ぼこりを被ったりしていますので、どの石も似たり寄ったりの見た目になっています。石ごとの特徴や美しさを引き出すためには割ったり磨いたりするのですが、岩石が自然にはがれたり割れたりして地表面に晒されていない新鮮な内部が露出しやすいのはやはり崖です。
こういった場所が鉱物利用を誕生させたと考えるのは自然です。



ここまでの話の流れから考えると日本は地震国ですから資源豊かな国になりそうです。実際どうなのでしょう?
世界遺産に指定された島根県の石見銀山を中心に鎖国前頃の日本は世界の銀生産の3分の1を占めるほどでポルトガルを介して世界に流通していました。日本は世界的資源大国です。

と言いたいところですが、
この例だけで結論を出すのは短絡的すぎます。

ウランなどは極めて乏しく国内で最も埋蔵量の多い東濃地域(岐阜県)のウランをすべて掘り尽くしても原発一基数ヶ月分も持たないそうです。

資源が豊かかどうかは、そこで言う「資源」が何を指すのかによります。次の記事でとりあげる「水資源」なら日本はかなり豊かです。

フランスは自国のことを資源に乏しい国と評価していましたが、この発言は原発推進政策の論拠として使われていました。
我が日本でも、資源に乏しいからがんばって働いて稼がなければならないなどと学校で説教されましたが、資源豊かだから人口支持力があるという逆の説明もあり、どちらの因果関係を採用するかは恣意的です。
その時代に価値を生む資源が何なのかにもよります。
石器時代には石を産する地域が資源に恵まれた地域で、銅の時代には銅、鉄の時代には鉄の産地、石炭の時代には石炭、石油の時代には石油、ウランの時代にはウラン、メタンハイドレードなら…、
石油ばかりがたくさん採掘される国は石油の時代には大儲けしますがそれを自然の豊かな国というかどうかは微妙です。石油にかわるエネルギーが主流になったら忘れられる存在です。
日本は単一資源が大量にあるという地域ではなさそうですが、石油も新潟の油田で20万人分くらいは自前だし、ウランも研究開発程度ならあるようです。技術開発までは自前でして海外で成果を発揮するというタイプかもしれません。
採掘技術と採算の問題もあります。石見銀山が世界的銀産地になったのは当時朝鮮から伝わった新技術と、国内外からの需要のためです。
同じ石見銀山の例から、日本はかつて資源大国だったが掘り尽くしてしまって既にないという見方もできます。しかし新たな技術開発で再開する場合もあります。
石油はこの先30年しかもたないと30年以上前から言われ続けてきましたが、それはあくまでも「現在の技術では」という前提での話。しかし未知の技術に期待して将来を見通す危険を考えれば懸命な考え方だったともいえます。

すでに文明の発達した現代ではどの国が新資源を開発して資源大国になるかはやる気次第の側面もありそうですが、
新たなアイデアの生む材料がプレート境界に集まっているという自然環境の方は今後も当分変わりようがありません。