
子供の頃
アレルギー性鼻炎でした。
耳鼻科に通って治療していました。
お医者さんは、針金の先に綿を巻き付けたような棒に薬を付けて、
その棒を鼻の中に直接入れて薬をつけるのですが、
それがいやでいやでたまりませんでした。
器具で鼻の穴をひろげ、薬品で浸した冷たい棒を鼻の中に突っ込んで薬を付けます。一瞬で終わるときもありますが、念入りに丁寧に行うときは、自分の身体のデリケートな内部をしつこくまさぐられるようでとてもいやでした。「痛い」というよりは「変な感じ」なのですが、その感触は自分の中では痛いという認識でした。
あるとき病院でクラスメートに会いました。彼も同じ治療をしているとのことでした。
ちょっと暴力的でガキ大将っぽいけど人望がないから子分はいないというタイプです。
病院で心細かったのか、彼の方から親しげに話しかけてきました。
そしてお互い同じ治療をしていることがわかり、意気投合しました。
そのとき彼は驚くべきことを言ったのです。
「俺さあ、あれが気持ち良くってたまらねーんだよ。
俺、あれやってもらいたくって来てるんだよ。」
びっくりしました。
それまで、あれがいかにいやかで話が盛り上がっているつもりでした。同じ話題で話していた彼の方は、
いかにそれが快感か
を話していたのです。
信じられませんでした。
それからしばらく彼の言葉が頭の中で何度も行ったり来たりして響いていました。
そうしているうちに
言われてみれば・・・
という気がしてきました。
確かに痛いという感覚とはちょっと違います。痛いのはこちらから拒否の気持ちが強くて力んでいるようなときです。
あの「変な感じ」を楽しむ人も世の中にはいるのです。
あれを気持ちいいと思えることができたら、
どんなに楽?
いや
お得でしょう?
考えているうちに、
だんだんと
「そうかもしれない」
と思えてきました。
実際アレルギー性鼻炎は鼻の中が痒いのです。痒いところを掻いてもらっていると思ったら・・・
はっとしました。
あの「変な感じ」の中にはその感触が確かに含まれているような気がしました。
これで
意識改革完了です。
次の治療の時、
早速試してみました。
お医者さんに棒突っ込まれながら、その感触を確かめました。
そうしたら・・・
確かにそうでした。
痒いところを掻いてもらっている感触があります。そしてその感触を確かめるためにしばらくそれを追い求めていたら、
「気持ちいい!」
って
いい気分になって、
すっかりお医者さんに身を任せていました。
その日を境に、
あの
「痛み」は、「快感」
に逆転してしまいました。
たとえていえば、
ある日を境に突然
ビールを
旨い!
と思えるようになった
その後の経験と
よく似ていました。
いろいろな味や感触が混ざっている中で、どの感触が味わうべき感触なのか。
それがわかるまではただ苦くてまずい飲み物、
それがわかってからはこの世で一番おいしい飲み物。
きっかけが
友達の一言だったということだけは違いましたけれども・・・。
