カレーライス 352
唐突で恐縮であるが、池波正太郎の名を熟知
したのは、かしか、今はもう廃刊になった月刊誌
話の特集において、イラストレイターの和田誠が
書いた作家の文体模写であった。川端康成の雪
国の冒頭のところを、何人かの有名作家の文体
で書き表すのであった。ずいぶん昔のことなので
あらかたは忘却のかなたであるが、池波正太郎
と大藪春彦を記憶にとどめている。
そのころ生意気盛りの僕は、時代劇作家を軽く
見ていたのであるが、池波正太郎もその伝で読
まなかったのであるが、敬愛する和田誠が取り
上げているのに驚き読んで見ることにした。
一等始は、食べ物のエッセー、散歩の時何か
食べたくなって、だった。読むうちにたちまち引
き込まれ、池波正太郎の贔屓になった。
そのころ、徳島市の小さな司法書士事務所に
努めていたが、昼食はおかあさんがつくる弁当
であったが、しばらく池波正太郎をきどり、法務
局の近くにある寿司屋に、折り詰めの寿司を買
いに行き舌鼓をうった。
池波正太郎が亡くなったのは、もう随分になる
が、六十七歳ではあまりにも若すぎる。あのころ
は、毎年有名人の多額納税者を新聞に発表さ
れていたが、池波がいつも、作家の中で一番だ
ったのはむべなるかな、である。