初秋 328
永井荷風の日記、断腸亭日乗を再々読。
こんなに面白い読み物はない。
日記は,大正八年正月元旦より書かれ(荷風四十一歳)、
昭和三十四年四月二十九日に終わっている。享年七十九歳。
荷風は散歩を好んだ、当時としては珍しいものだった。
散歩は、西洋からもたらされたもので、明治時期は、日本
人に散歩の習慣はなく、むしろ大人の男がぶらぶらほっつき
歩くのは、忌み嫌われていたそうである。
荷風は、若かりし頃、亜米利加と仏蘭西に遊学しているの
で、散歩を楽しむ事を学んだのであろう。
評論家の中村光夫によると、作家になるべく留学したのは
荷風をもって嚆矢と言える。
荷風の写真をご存知であろうか。痩身を黒の三つ揃いで
包み、めがねと帽子、そして必ずバッグを手にしている。
そのバッグの中身といえば、荷風の全財産が入っている
のだ。現金三十一万、貯金二千三百三十四万四千九七十
四円。現下の価値に換算すれば、現金六百二十万円。貯
金四億六千六百八十九万九千四百八十円也。