びわ 273
こんなことがあった。
小さい頃だった。おそらく四、五歳のころだろう。
ぼくは、母親と二人、山道を歩いていた。
母親の里帰りにつれられて、バスを降りてじいさんや、
ばあさんさんのいる家を目指して歩いていた。
ぼくは、歩きくたびれてむずかり出した。
母親は、困惑してぼくをなだめたが、まったく云う事を
聞かない。
しかたないので母は、お土産に買った果物の中から、
リンゴを一個ぼくにくれた。
ぼくは、お腹がすいてむずがっていないので、母の勘
違いにいっそう腹が立ち、手にしたリンゴを道端の井戸
に放り込んでしまった。
そのときに、おじいさんおばあさんの家で撮った写真が
アルバムに残っている。
庭の畑で葱坊主の後ろで写るぼくは、セイラー服とベ
レー帽のワルガキだ。
あのリンゴはどうしたのだろうか?