_ 坩堝と齷齪 4
唐突ですが、誰しも自分の中にさやかに自分を見つめ
るもう一人の自分をもっている。そのものの名を倫理とか
超自我とよばれる。これが人間の行動のブレーキになるの
である。しかし、度々人間は激情にかられたり、激怒に身を
震わすこともある。そのときは何故かもう一人の自分は消え
ている。そして平静になるにつれ再び現れ、自分の中のもう
一人の自分が、自分の行った取り返しのつかぬ行為を責め
苛むのである。
そのようなことは大小の違いはあれ、あまねく人々の身に
覚えがあるであろう。ぼくも例外ではない。振り返れば心が痛
むかずかずの思い出がある。思い出となっているのは、まだ
痛痒さが軽いもので、深く後悔の念に苛まれるこのは、記憶
に蓋をして封印されてしまい、省みられることもできない。
人間はいとしいものであると同時にいまわしい者でもある。
自分自身を俯瞰してみても、自分が思っているほどに自分は
いい人でもなく、また悪い人でもない。ただ時々意地悪になっ
たり、ずるくなったり、薄情、傲慢、臆病、軽薄、無礼だったり
して、たまさかにやさしくなる、有象無象である。