ブルース 9
最初の一行が書ければなんとかなる。しかし、その一行
がどうしても書けない時は地獄である。脳が全く働こうとしな
い。だだをこねた子供のような塩梅である。
プロの連中はこんな時にはどう対処するのであろうか。
ただ諦めて酒でも喰らうのであろうか。それともなんとか書
く秘訣があるのだろうか。
ぼくみたいに雑文でさえあえいでいるのに、名にし負う文
筆家なれば、あだやおろそかに腑抜けた空虚な文を認める
わけにはいかぬであろう。常に至高なる傑作を求められて
いるわけだから、その義務感たるや恐るべし。のんびりジャ
ズを聴きながら書ければよし、書けなくてもなんの不都合は
ない、これを幸福と言わずして何が幸福であろうや。ようす
るに、ものは考えようである。不幸と思えば不幸。幸福と思
えばそれ。ドストフスキーがかく申した。不幸な人間は、自分
が幸福であることを見つけられぬ人間である。これに尽きる。
幸福感というものは、さながらうたかたのごとし。曖昧模
糊としたもんで、相対的なものだから、自分を客観的に眺め
る視点にいかようにも感じられる。これが、空腹の場合、い
かに満腹と思っても、空腹は空腹である。空腹感を失くすた
には、吉野家で牛丼を食わねばならぬ。これこそが幸福感
と空腹感の著しい相異である。文句はいわせぬ。