鰻と犬 9
てなわけで、太陽は遥かな地平線の下に沈んで
いきました。ぼくはやるせない気持ちに襲われてし
まい、しばし西のそらを眺めやりましたが、それは
一時の感傷で、内なる気力は今だ健在であります。
およそわれら人類は、いまでこそ全世界にのさば
っていますが、うん百万年か以前は、はるかなアフ
リカのジャングルで細々と木の実を食みながら生き
てきた訳でして、いわば居候のような存在とでもい
うべきものでした。それがどうしたわけか、現在のよ
うに地球からあふれ出るがごとく増えたのはいかな
る神のなせる技なのでしょうか。それが地球にとっ
てどのような意味をもっものかはおいらごときのゴ
キブリには想像すらできません。
ときどきそんな考えてもせんなきことを、ふと思い
をはせるのですが、そういう形而上学とでも呼べる、
ほとんど無意味に近い思念が脳裏をかすめるのも、
おいらが人類の端くれの証拠かもしれません。
そんな思いから我に返り、しみじみ足元を見やれ
ば、あれこれの解決をせまられている問題があまた
あるのである。恥ずかしながら、まず朝食に何を食
べるのかが、おいらに課せられたとりあえずの問題
なのである。いやはや。