猫と柳 1
雨の降る品川駅は中野重治だった。
辛よ さようなら
金よ さようなら
君らは雨の降る品川駅から乗車する
で、はじまる中野重治の詩を読んだのは二十歳のころ
だった。岩波文庫で★いっこの50円だった。買ったの
は渋谷の文献堂だったと記憶している。
それまで中野重治は歌のわかれや、むらぎもの作者
である小説家だと思っていたが、詩集を読んで本質は
まぎれもなく詩人であることがわかった。
歌
お前は歌うな
お前は赤ままの花やとんぼの羽根を歌うな
風のささやきや女の髪の毛の匂いを歌うな
すべてのひよわなもの
すべてのうそうそとしたもの
すべての物憂げなものを撥き去れ
すべての風情を擯斥せよ
もっぱら正直のところを
腹の足しになるところを
胸先を突き上げて来るぎりぎりのところを歌え
中野重治を時々読み返し、自分の狡さを考えてみよう。