白河夜船 19
はなはだ僭越とは思いますが、ぼく思うにはしな
くも思いもかけない人からいにしえに思うところが
ありきと、うわさではあるが伝え聞くことがあった。
はて、訝しきことよ。わがみに覚えはない。その
ご婦人にほとんどと言っていいほど記憶が非ず。
そのうえ名さえ定かならず。いと、疑わしきことよ
と小首をひねってみたものの思案のほか、一向
に埒があかず、ままようっちやっておいた。
やがてモッレタ糸もほぐれ、やっと実相がみえ
てきた、ぼくに伝えてきた男があわてもので、同
じクラスの同姓の奴とまちがえたのである。おか
しいと思った。ぼくが麗しき乙女の心を悩ますは
ずがあるわけない。
ぼく思うに、われらの世代今まで生きるのにせ
いいっぱいであった。子供もかたずき、やっと人
生をふりかえる時が来て、クラスメイトとのよもや
ま話に、ふと、青春のほろ苦き想い出をもらし、
それが一人歩きしぼくらの耳にとどいたのであ
ろう。そこに勘違いがうまれた。いいではないか。
許そうではないか。怒るなんて大人げない。