壊れた楽器が教えてくれる事 | tmpブログ

壊れた楽器が教えてくれる事

2/27 ヨコハマ 雨は上がっていますが寒いです。

写真のネックは以前に製作してストックされたままだった初期型CCR 用のフラットヘッド・ネックです。
これからスロープヘッド仕様に作り替えてあげてる為にペグの元穴を埋木している最中です。
これを現在製作中のテレキャスターの様なコンポ系のギター用にしてあげようと思っています。

現在製作中のオールローズ風の楽器に惹かれる方が結構いらっしゃる様子なので似た様な楽器をもう1本製作する予定でいます。
今回はイタヤ1PのSH ネックではありませんから数万円安く仕上げられると思います。
たぶん本体のみ/税別:32~33万で販売出来ると予想してます。

もう一枚の写真は8弦マンドリンの研究の為にアメリカから入手した100年近く前に製作されたボウルバック・マンドリンです。
破損では無く、トップ変形による割れと波打ちで使えなくなったまま放置されていた個体です。
なんでこんなモン買うのか、ってお思いでしょうが、ワタシが新しい楽器の研究の際に重要としている事のひとつに「限界設計の把握」と言うのがあります。

通常の8弦のマンドリン・チューニングの張力に長年製作時の精度を保つのにどこまでの強度が必要かを知っておく事が重要なんです。で、こうして耐えきれず変形してしまった個体のトップ厚設定、ブレーシング構造がどうであったか、どこに大きな変形を起こしているかなど、こうして壊れた楽器だけが教えてくれる事があるのです。

これは現代の楽器製作でも言える事でここ半世紀に製作された楽器の多くは変形を恐れて多くの場合、強度を上げ過ぎているのです。厚い材構成、張り巡らされ過ぎた過多なブレーシング補強によって肝心の楽器としての倍音豊かな響きやバランスを失っています。

反対に言えば、箱モノ楽器はトップ材を薄く、ブレーシングを少なめに配せば鳴り易い個体にすることは可能です。が、その場合には強度不足によるトップ変形が起こり、結局はこの楽器の様に壊れて使い物にならなくなってしまいます。
この個体もヘッド角やペグロケーションもなかなか的を得た設定ですしトップ材も2ミリ程ですから、たぶん製作当初はよく鳴り響いていただろうと予想出来きます。でも数年後から徐々にトップ変形が起こり始め、デッドな鳴りに変化し始めた筈です。

こうしたことから逆算でトップ厚は2ミリを下回っては危険である、とか伝統的なマンドリンのブレーシングパターンも理想的とは言えないという事が再設計時のベースになるわけです。

現在も多くのアコースティック・ギターが半世紀以上前の設計と殆ど変わらぬまま製造されています。あえてここで詳しくは語りませんが、ワタシには既に数多くの問題点が浮き彫りになって見えています。そこから生まれたのがアコギのチューンナップで行っているブリッジ台座の設定変更やペグロケーション変更などです。それも問題点がどこをどうすればいいかを教えてくれたからです。
ワタシは誰かの指導を受けた事は無い技術屋ですが、知るべきすべは全て楽器そのものから教わりました。人は誤った方法を信じ込んで生きてる場合が多いので人に頼るよりも自分で再構築して行くしか本来手は無いものです。人の生き方だってそうでしょ? 

ちなみに、この古いマンドリンは修復に手間ひまが掛かり過ぎるのでこのまま手元に置く事にします。そうして自ら「設計を誤ると僕の様に二度と歌えない楽器になっちゃうよ」と、傍らで教え続けてくれるのです。その結果、理想的な設定の楽器の誕生の礎となれれば、きっとこのマンドリンも報われる事でしょう。

こうしてあらゆる弦楽器に精通して行く事が出来れば、それを身につけた人間にしか見えて来ない事が沢山あるものです。
もしワタシが演奏家だったら、楽器の製作を依頼する時にはそうした奥深い見識や様々な技術を身につけた製作家さんにお願いしたいと思う筈なんです。
だからこそ、こうして自分が望む様な製作家に自分がなる為に日頃から様々な楽器に接し研究しています。
それが結果的にワタシに仕事を依頼して下さる皆さんの為になると信じているからです。

それにしても今日は冷えますね~

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