個別報告 佐賀のOさん | tmpブログ

個別報告 佐賀のOさん

10/5 ヨコハマ朝からずっと雨が降り続いております。塗装も燻煙も作業中断です。

写真は佐賀のOさんからチューンナップ依頼で送られて来たマーティンの28ECです。
クラプトンのシグニチャー・モデルですね。
断面からのショットにしたのには理由があります。それは皆さんにも参考になると思ったからなんですが、この個体はサドルが通常の倍の高さに設定されています。写真でも確認出来ると思います。

Oさん、この状態で弾いていたんだろうか?って思う程の弦高なんですね。当のEC本人のはこの半分の弦高しか無かったですよ。(^-^)

何を皆さんに参考にして欲しいかと言う点ですが、ここまでサドルを高く設定しますと張られた弦の張力で完全にブリッジ台座全体が前倒しに負荷を受け続けますので当然ながらブリッジの後端からトップ面がめくれ上がって来ます。しかもトップ厚が決して厚めの設定ではないので単にトップが膨らむだけでなく、ブリッジの手前のサウンドホール側は下に沈み込む力が加わり続けますので結果的にトップ面が波打変形してしまうんですね。こうなるとまともな響き方はしなくなってしまうんです。
この個体もそうなる直前と言った状態です。

アコギはトップが膨らんで変形してしまう前にチューン依頼して下さいね、と皆さんに以前から呼びかけている理由がそこにあります。一旦膨らんで更にその状態が継続しトップ面が波打ち変形し出すと、もうアウト!なんです。まともな響きは諦めるしかないです。
大切なアコースティックの所有者さんは是非そうなる前にご依頼下さいね。

同時に再びの解説になりますが、これまでのアコギの共通設定部分としてブリッジ台座の弦穴からトップの裏面に弦が引き込まれてブリッジのすぐ下でボールエンドが留まる設定になっています。
その位置が問題なんです。このボールエンドの位置があまりにトップ板に近過ぎるんです。その結果、張力で裏側からめくり上げる作用が働きトップのブリッジ台座が前倒し易くする一因になっています。もっと深い位置にボールエンドを留める必要がそこにあるんです。
要するにこれまでのアコギには設計自体に改善すべき点があると言う事です。

現状ではtmpの様な設定では製造されていませんから当然経年変化でブリッジ台座周辺は膨らみ、変形します。それをこれまでの製造現場ではその問題点を放置するか、ブレーシングなどの補強でトップの変形を抑えようとするかのいずれかだったのです。当然トップの変形を補強で抑える事が行なわれては来ましたが、その多くは補強の結果、強度は増した替わりに肝心な楽器の鳴りや響きが犠牲になって来たのです。
前から申し上げている点ですが、従来のギターの設計には問題が数多くあるんです。まず物理的な設計からやり直さなくてはそれらの問題は絶対に解決出来ないのです。

楽器も設計が命、その設計の命は物理です。

物理的な設定研究が行われず、今日まで問題点がそのままで製造されていることは技術者として残念でなりませんね。またユーザーさん側も昔の設計のままのオリジナル仕様に拘る為に、メーカーも設計変更を行い辛いという側面もあるのは事実なんです。
ワタクシからみれば、素人さんが単に昔のオリジナル仕様がいいって言ったところで、所詮素人さんが根拠も無く言ってるだけなんだから、より良いものに作り替える勇気を持ちなさいよ!ってメーカーさんには言いたいですね。

tmpではブリッジ台座への段差加工+内部のブリッジ裏面への宛木加工によるボールエンド位置修正を行なって非常に好評を頂いています。なぜならトップの変形が収まり、ブリッジ部での張力バランスが整う為に弦高を下げてもしっかりした腰の在るバランスした響きが得られる様になるからです。

その作業をこれからこの個体にも施して行きます。
それからOさん、これまでの状態からネックへの張力負荷が大き過ぎた影響だと思われますが指板面が正確に言いますと既に波打ってしまっています。但し取り敢えずはフレットのファイリングで今回は対処出来ますので、このフレットが摩耗した次回には指板修正&リフレットをなさった方が宜しいかと思います。またペグ関係は現状で問題ありません。
よって今回は燻煙処理、フレットファイリング、ブリッジ台座加工全般、ナット&サドル調整となります。トータルコストは税別¥125.000 を予定しております。以上、チェック報告でした。

天候が回復しない事には燻煙処理が行なえませんので、回復後からの作業となりますのでその点はご了承下さいね。

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