実家の使っていないデスクを何気に開けてみたら、とても懐かしい物が出てきた。
「ある出逢いから別れまで」では小学校時代の恋バナだったけれど、
今回は~その2~ということで少し大人になってからのお話。
「まさに 99.4.22」
そんな始まりの手紙。
12年という月日のせいで、封をしていたテープは黄色くなり古さを感じるものの、
その中身は12年という月日を簡単に飛び越える「絵」をボクに見せてくれた。
「まだ一週間しかたってないのにね。すごく長い間会ってない気がするね。
仕事は思ったよりも大変です。毎日8時間だからかなり疲れる。ダルい客も多いし。
でも、またきついからやめるとか、そんないいかげんにできないと思うからがんばるね。
毎日まさのこと想ってる。会いたいです。
これほどまでに誰かを愛しく思ったことはないくらい愛しいし、寂しいです。
だけど、知恵の勝手で離れてしまったのだから、まさも辛いと思うし、ごめんね。
だけど、あのまま何もしないわけにもいかなかったし、急なことになったけど
いい経験にもなると思う。
仕事を辞めて帰るのはいつになるかわからないけど、知恵のこと待っててくれるかな?
知恵は、きっとずっとまさが大好きだから、まさのとこに帰りたいってそう思ってる。
きっとそのことは変わらない。
来週1回帰るっていったのに、2週間も延びてごめんね。早く会いたいです。
抱きしめて欲しい。 まさが大好き。
次に会うまでにほんの少しでもかわいくなっていられるようにがんばっとくね。
そして会うたびに変わっていけたらいいなと思うよ。いい意味でだけど。
じゃぁ、また手紙書くね。
体に気をつけてまさもがんばって。
会えるのを楽しみにしてる。
愛してる。 知恵」


彼女との出会いは1998年。アルバイト先でだった。
当時ボクが21歳。彼女は17歳。
よくバイト仲間で飲みに出ていたのだけど、いつの頃からか彼女もよく顔を出す様になった。
もう時効だが、酒が強かった。
カラオケではよく椎名林檎やジュディマリを歌い、女の子では珍しくアメリカンタイプのバイクに乗っていた。
ファッションではロック、パンク風でヴィヴィアン・ウエストウッドを好み、
時にはロリータファッション全開だった。
これもジュディマリや椎名林檎の影響だったのかもしれない。
話が合わない訳ではなかったが、ボクが好きになるタイプとはかけ離れていた。
人はLowからHiの差が激しいギャプに惹かれる。
ボクもその類いに漏れず、彼女の見た目とは裏腹な寂しそうな内面を見ていたのかもしれない。
とある飲み会の帰り、彼女はこう言った。
「酔った男女がこうして二人っきり。そして私に手を出さないって事は、私に魅力がないってことだよね」
彼女はいつもそうだった。
自分を決して好きじゃなかった。
見た目や内面、自分という人間に対してネガティブな考え方を常に持ち合わせているような子だった。
それでいて、自虐ネタ的に自分を笑い、周りに媚びたり助けは求めなかった。
ボクが言うのも何だが、顔つきはとても整っていたし気遣いのできる子だった。
1つ欠点を挙げるのなら、酔っぱらうと手が付けられなくなる(笑)
もしかしたら、酒に救いを求めていたのかもしれない。
その夜から間もない冬の終わりにボクらは付き合いだした。
ボクにとって彼女という人間は新鮮だった
若さ故に、無茶も沢山したが楽しい日々を過ごした。
21歳と17歳という年齢的に結婚を意識する様な二人ではなかったけれど、
それが逆に刹那的にお互いを求め合っていたのかもしれない。
今はあんな自由で無茶な付き合い方は出来ないと心から思うが…(笑)
そんな彼女も18歳になり高校を卒業するも職が決まらず、
しばらく地元の飲屋街で働く様になる。
そしてボクらにも大きな転機が訪れる。
飲屋街で働きだして1ヶ月が過ぎた頃。
新しい職が決まったとの事。
「東京に出る。歌舞伎町で働いて来る」
椎名林檎かよ…って突っ込みはしなかったが、唐突に遠距離になってしまった。
今の時代と違い、まだまだ大分⇄東京の距離感は遠かった。
旅立ちの日、大分空港まで送った。
どういう風に見送ったかは覚えていない。
ただ、空港からの帰り道にglobeの「Departures」が流れていたのは鮮明に覚えている。
別れた訳ではないけれど、その距離感に何とも言えないキモチになった。
冒頭の手紙は東京に旅立って一週間後に届いた手紙だ。
「まさに 5.15(土)
手紙ありがとう。さっき仕事終わって帰ってきたよ。
今日は疲れた。金曜は忙しいから。
それに久しぶりだったからすごくダルかったよ。
でも給料日だったからがんばったの。
そしてエアロ買えるよ。ちゃんとすぐに修理してよね。
まさのアコちゃんはちえも愛してるんだから、ちゃんとなおしてあげてよね。
大分に帰って楽しかったよ。ほんとにあっという間だったけど帰ってよかった。
やっぱりまさのことが愛しくてたまらなかったよ。
最後ケンカみたくなって残念だったけど、ちゃんと仲直りできて良かった。
まさは怒るとすぐにだまるからね。知恵は頭悪いから、一生懸命考えても分からないこともあるんだよ。
どんなにわかりたいと思ってもわかんないことだってあるよ。
だから、できればなんでも言って欲しいよ。
知恵としゃべりたくもないくらい怒ってるっていうときは仕方ないのかもしれんけど。
今まで何回かケンカみたくなったけど、ケンカっていうか知恵が1人で怒って
そうかと思えば泣きだして、そんなんばっかりだったけどね。
まさはいつでも無口になるから知恵に理解は求めてないのかしらって悲しくなってたよ。
これから離れてるけど、だんだんまさの考えてることがわかるようになりたいと思うけど、
それにはきっとかなり時間かかると思うし、なるべくなんでもはっきり言って欲しい。
知恵もまさが大好きだよ。
大分に帰って本当そう思った。
コスプレ楽しかったね。またしようね。
知恵は東京でがんばるから、まさもがんばって。
今度帰るのは7月くらいになると思うけど、それまでがんばろうね。
じゃあ、また手紙書くから、電話もするからね。
元気でね。 知恵」

ボクは自分でどんな手紙を書いたのかは覚えていない。
だけどこうして何度か手紙のやり取りをしていた。
当時はまだデコメールなんてなかったんじゃないかな?
携帯メールではない、直筆の手紙から伝わるもの。
どんなに伝達技術が進歩しても、この良さは変わらないだろう。
彼女が東京へ旅立ってからのボクは、いったいどんな精神状態でどんな日々を過ごしていたのだろう。
やはり旅だって間もない頃はとても辛かったに違いない。
いや、辛かった。
ただ、次の約束があったから生きていられた。
きっとそうだったと思う。
月日は止まる事なく流れる。
そんなある日。
歌舞伎町で働いている彼女。特に仕事内容に触れた事もなかったし、聞こうともしなかった。
だけどひょんな切っ掛けで、ボクは仕事内容を知る事になる。
いや、ただ、確信を得ようとしなかっただけでどこかで予想はしていたのかもしれない。
だから「やっぱりか」って思っただけだったし、正直抵抗もなかった。
風俗業会でも。
ただ、それはそれで本人の口からちゃんと聞いとくか、って思いで連絡をした。
きっとボクに対して後ろめたい思いでいたであろう彼女。
ボクは責めるつもりもなかったし、それで嫌いになった訳でもなかった。
でも、彼女的には日々の仕事でいっぱいいっぱいの状態の中、
心の中でつっかえていたものが取れたのだろうか。
ボクに知られた事により、ふたりは別れる事となる。
「まさに。
手紙と荷物ありがとう。CD、手間かけさせちゃってごめんね。
そして、仕事のこと。やっぱり言えなかったよ。
でもね、知恵は今、一生懸命やってる。
好きでしてることじゃないけど、自分で決めたことだから納得のいくまで続けようと思ってる。
今は、かなり一杯一杯で余裕がなくて、まさに連絡ほとんどできなくてごめんね。
知恵は今、自分のことで精一杯なの。
自分のことすら十分でなくて、人のこと思いやれるはずがないと思う。
まさのこと本当に大好きだったよ。それだけはわかって欲しい。
勝手を言ってごめんね。
今はもう、誰とも付き合うとかできない。
知恵には明確な先が見えてないど、もう戻ることはできない。
こんなふうになってしまったこと、謝るしかできないけど、
東京へ来たこと後悔してはいないから、本当にごめんね。
でも、知恵はまさとこれから恋人という関係ではないけれど、仲良しでいられたらと思ってる。
それは、すごく勝手で調子のいいことだから無理なのはあたりまえかもしれない。
それなら仕方ないと思う。
本当にごめんね。
ムカつくよね。嫌いになっていいよ。
ごめんね。知恵が悪いね。
今までありがとう。
本当にスキだった。 知恵」


こうしてこの手紙を最後に別れを迎えた。
ムカつく訳がなかった。
嫌になれる訳がなかった。
ただ、仕方のない事なんだと言い聞かせるしかなかった。
皮肉にも唯一の救いは大分⇄東京という距離だった。
キモチを落ち着かせるには十分な距離だった。
「二度と会えないかもしれない」じゃなく、
「二度と会えない」
そう思える距離だった。
ただ、そうは言っても携帯電話は距離など関係ない。
その後、仕事を辞めて大分に帰って来るまでの2年間、彼女が手紙の中で望んだように、
彼女から連絡がくれば答えていた。
ボクから連絡をする事はなかったが…。
年に何度か帰ってきたときは会って酒を酌み交わした。
その度に「彼女できたの?」と笑う彼女に「残念ながら」と答えていた気がする。
実際、ボクは特定の彼女を作ることはなかった。
一年の中で何度か連絡をくれる彼女に、正月などのタイミングで帰省して来る彼女に、
何か期待をしていたのかもしれない。
単に彼女を作る切っ掛けがなかっただけかもしれないが(笑)
そして運命の2001年を迎える。
彼女が仕事を辞めて大分に帰って来るという。
ボクが24歳で彼女は20歳。
10年前だ。
ちょうどボクが今の仕事を始めた頃だった。
何かが変わる年だったんだと思う。
彼女が大分に戻ってきてからは、お互い昔のような付き合いに戻っていた。
自然だった。
ボク的には「2年耐えた」という言い方が正しいかわからないけれど、
彼女が帰ってきてからは、その2年という月日が嘘の様に、
キモチが2年前にタイムスリップしたかの様だった。
ただ、自然すぎてどちらからも「戻ろう」という話は出なかった。
どちらかがその言葉を口に出していれば、その後の人生も違っていたかもしれない。
いま思えば不思議だけど、その時はお互いにそれでよかったのだろう。
そして結局ふたりは別々の道を歩く事になる。
彼女が戻ってきて半年がたった頃、お互いにふっと連絡を2,3ヶ月取らなくなった時期があった。
2年の間にだってそれくらいの時間が開いた事はあった。
ただ、戻ってきてからは頻繁に会っていたのにね。
ほんと何があったって訳でもないのだが、空白の期間だ。
ボクはその時期に、人生のターニングポイントとなる女性と出逢う…。
そして21歳と17歳で知り合ったボクらは互いの人生を歩んで行った。
大分に戻ってきて、再び互いを求め合ったときに言わなかった言葉。
そして空白の期間。
なんの悪戯なのか、それを運命だったと言ってしまえば終わりだけど、
巡り会いとは不思議なものだとホントに思う。
最終的に寄り添う相手はこの世にひとり。
出会いと別れを繰り返し、たったひとりを見つける旅を続ける。
今では結婚をして子どももいて、幸せに暮らしているであろう彼女。
そんな彼女も今年30歳になるんだね(笑)
当時のバイト仲間はいまだに仲良く付き合いがあるから、
久々にまたみんなで集まりたいね。
あの頃、遠距離の末に下した別れの決断。
お互いのキモチがどのように揺れ動き、
どういう段階を踏んでいったのかは、今でははっきりとは覚えていない。
ただ、あの時は好きだけど別れなきゃならないって事だった。
そして再び距離が近づいても、同じ道を歩く事はなかった。
一度手放したものは、そう簡単に戻らないって事なのだろうか…。
そして、再び同じような出来事が巡って来るんだ。
歴史は繰り返す…か。
