路上ライブをすると2人で決めた日から、俺たちは数えきれないくらいの練習を重ねた。

何よりみさこの練習量と練習の質の良さに驚かされた。

気づけば、ギター片手に練習をしている。

俺も負けてはいられないと、路上ライブをする日までより良い曲を目指した。

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「いよいよ、明日になったね…」

「なんか俺…路上ライブしたことないし、緊張するわ…笑」

「にっしー見てると、最初の頃の自分思い出すなぁ…笑」

「みさこもビビってた?」

「もちろん笑にっしーよりビビってた。だって、高校卒業して右も左もわかんないまま、ただ歌い続けてたんだから。」

少しその頃に戻ってしまったように感じたみさこは小さく見えた。

すぐ隣にある床に置かれた右手に手を重ねる。

「大丈夫。こんなビビってても1人じゃないから。俺がいる。」

「…うん。」

みさこが近づいて肩に頭を乗せた。

失敗してもいい。まずは演奏をお客さんに届けきること。

それが最初の目標だ。

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路上ライブの会場となる駅前で楽器や機材の用意をする。

準備をしている時点で、ジロジロと見られているようで落ち着かない。

譜面台を組み立てる手が震えているのがわかる。

横を見ると淡々と機材を組み立てているみさこがいた。

「みさこ。」

「ん?」

「心臓、飛び出そう…オエっ…」

「ちょっ、にっしー笑大丈夫だから。私がいるよ!それににっしーがアレンジしてくれた曲を一緒に歌うの、すんごく楽しみにしてたんだから!!ここでにっしーがいなくなったら、私めちゃくちゃ悲しい…」

彼女にこんなこと言われたら、男としては踏ん張るしかないではないか。

なんとか深呼吸を繰り返し落ち着かせる。

「よし…じゃあ…「駅前をお通りのみなさーん!こんにちは!私たち、まだバンド名は決まってないんですが、初めて今日曲をお聞かせしたくてやってきました!!ぜひお時間ある方は足を止めて聴いてくれたら嬉しいですっ!!」

「…」

「どうした?笑」

俺を励ましていたと思ったら、いきなり声がけなんて始まるもんだから驚くだろ。

「いや…なんか声がけとかするなんて思ってなくて…」

「いつもね、こうやって声かけるんだ。少しでも多くの人に聴いてもらえるように。」

そう話すみさこの瞳は輝いていて。

やる気に満ち溢れていた。その強さに背中を押された。

こんなことしている場合じゃない。そうだ。聴かせたくて俺たちはここまでやってきたんだ。

「…こんにちは!ぜひ聴いてってくださいっ!」

みさこに続いて、なんとか声をかける。

隣で笑いかけてくるみさこに胸が熱くなった。

声をかけると、数人だが立ち止まってくれる人がいた。

「集まってくださった皆さん。本当にありがとうございます!今日が私たちの初めてのライブです。ぜひ楽しんでいってください!」

まばらに拍手が起こる。

自己紹介もせずに、みさこはすぅっと息を吸いごんだ。

これは曲が始まる合図。

いつもの練習より、もっともっと聴いている人に届くように。

足を止めてくれる人が多くなるように。

心を込めてみさこの歌声に寄り添った。

演奏中に目が合う。

こんなに音楽って楽しかったんだ。そう改めて思った。

曲を披露し終わると、知らぬ間に多くの拍手が響いていた。

「「ありがとうございましたっ!」」

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「はぁ…マジで緊張した…笑」

「え〜?曲始まったらめちゃくちゃ自信もってるように見えたよ?笑」

「ならよかったけどさ…笑」

練習は裏切らない。今まで信じてなかったけど、今日はそう素直に思えた。

「あの…」

「…?」

女子高生だろうか。お揃いの制服でスマホを握りしめている。

「俺?」

「はいっ…!あのぉ…「写真撮ってもらってもいいですか?一緒に…」

ひとりの子が言葉に詰まっているのを見かねて、隣の子がそう言ってくる。

こういう対応をしたことがないから、ちらっとみさこに助けを求める。

「あっ、写真ですか?」

「はい!」

「もちろん、オッケーですよ!」

「ちょ…みさこ…」

ありがとうございますっ!ついでにTwitterとかにあげてもいいですか?」

「それは、彼次第かな笑」

今度はみさこは答えなかった。

自分でそこからは考えてということだろう。

別に投稿されて困ることはない。

知名度向上になればと、承諾の返事をする。

「やったぁ!」

そう言ったかと思うとあっという間に2人に挟まれて、ポーズを取らされ、シャッター音がなる。

「また演奏聞かせてくださいっ!」

「…もちろん。ありがとね。」

2人はきゃあきゃあ言いながら嵐のように去っていった。

「よかったね。」

「ん?」

「ああいう若い子たちが熱狂的なファンになってくれるかもしれないんだよ?誰一人として漏らしちゃダメだからねっ。」

「確かになぁ…でもさ、みさこ自身SNSとかやってないんでしょ?」

「…そうなの。それが問題って思ってたんだけど!今思いつきました。バンドのTwitter始めよ!」

「2人の?」

「うん!さっきのあの子たち見ててわかった。今はやっぱりSNSの時代だよ。このバンドのアカウント作って、ライブの告知とかしたらもっとたくさんの人に聴いてもらえるよ。」

みさこのやる気に圧倒される。

そうだ。売れるのを目指すとはこういうことだ。そのためならなんでもやってみるのが大事なのだ。

片付け作業をする様子を撮影して、早速そくせきでつくったアカウントに載せた。

名前はまだない。

だから、「名前はまだない」というアカウント名。

「なんかこのアカウント名いいね笑」

「適当に打ったんだけど笑」

「逆にさ、これバンド名にしちゃう?」

「マジで言ってる?笑」

「うん。マジ。だってさ、これから何にでもなれるってメッセージが伝わってくるもん。私たちの曲らしいじゃん。」

俺が答える前に「けってーいっ!」と言って、さっさと片付けを再開していた。

「今度からは演奏前にフォローお願いしなきゃな…」

「抜かりないなぁ…笑」

「そりゃ、そうでしょ。」

「わっすげ。もうフォローしてくれてる人いるよ。」

スマホの画面を見せると、みさこが近づいて覗き込んでくる。

「あっ、この子たちさっきの子達じゃない?」

「ほんとだぁ…私の歌声も褒めてくれてる…」

「こうやって広がっていくんだな。俺たちのことが。」

「うん。」

恋したのはあなたの。14 END♡
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こんばんは!渚ですニコニコ

いやぁ…年度末って恐ろしいですね。引っ越しをしなければならなくなったので、まだバタバタしそうです…

皆様の中でも環境が変わる方もいらっしゃるかと思います。

環境が変わるって結構大変ですよね…

Aヲタ同士助け合っていきましょう飛び出すハート

ということで、今回は初路上ライブのお話でした!

みさこちゃんみたいに引っ張ってくれる女の子ってかっこいいよなぁなんて思いながら、かきつらねておりました。

もう少しお話が終了するまでお付き合いください!

あっ、円盤化決定しましたねっ!すぐ予約せねばっ!

コロナじゃなかったら、みんなでDVDみてペンライト振りたいなぁ…泣き笑い泣き笑い



​破産しても買うぞー!!