「みさこ〜準備できた?」
「うん!靴履いてていいよ!」
「あーい」
ようやくにっしーとギターを買いに行く日になった。
バイトで頑張って稼いだありったけのお金をおろした財布は重たい。
楽しみで楽しみで仕方がない。
こんな感覚久しぶりだ。
部屋のドアを開け、玄関で待つにっしーに声をかける。
「お待たせ〜」
「…」
とびっきりの笑顔を向けたはずだったが、にっしーは何やら少し口を開けてフリーズしてる。
「えっ…どうした?」
「なんか雰囲気違うんだけど…」
「そう?」
靴を履きかけのにっしーの隣に腰を下ろして、少し前に買ったお気に入りのパンプスに足を通す。
「そう?」と惚けながらも、今日は気合を入れたことに間違いはない。
だって、名目上初デートじゃん。
気合を入れないわけがない。
「…ちょっと気をつけないとな。」
「何を?」
「変な虫がつかないように。」
いきなり耳元で言われると、なんだかおかしくなる。
「…///」
「あっ…照れてる!」
「いや!照れてないしっ!」
そう言い訳してにっしーの方を睨みつけたのはいいものの、まぁとにかくイケメンだった。
「私の彼氏イケメンすぎる!」と大々的に呟きたいくらいだ。
ラフな格好のくせにめちゃくちゃかっこいいのがずるいなと思う。
「…私ばっかり気合い入れてるみたいに言うけどさ、にっしーも髪セットしたでしょ。」
「まぁな…」
気合いをいれてくれたのは、この上なく嬉しいけど、これくらいいじらないとフェアじゃない。
「みさこを恥ずかしい目に合わせるわけにはいかないし。」
そのままでもかっこいいし、隣で歩いてる私の方がにっしーに恥をかかせないか不安になるくらいだ。
少しうねりがかかった髪の毛は、子犬のような可愛らしさを醸し出していた。
靴を履きながらだから、異様に距離が近くて肩がふれあう。
「…口紅」
「ん?」
「口紅の色取れるよな…キスしたら。」
にっしーの右手が優しく頬に触れる。
触れられるところが熱を浴びるのがわかる。
口紅なんてそんなのどうでもいい。
「…してよ。」
「…えっ?」
「キス…してよ。」
恥ずかしいけど、それもどうでもいい。
触れ合いたくてしょうがなかった。
にっしーはため息をついて、私の頬に手を添えたまま軽くおでこをぶつけてくる。
「好きだ…」
私も。そう言おうとしたけど、唇で塞がれた。
触れ合うようなキス。
少し角度を変えただけで、離れてしまった。
名残惜しくて私からもう一度重ねる。
玄関の狭いスペース。そこに幸せなとろけそうな空気がただよう。
「…みさこ。続きはマジで…後にしよ。出かけられなくなるから…」
「うん…」
「…でも今めちゃくちゃ頑張って止めたから、帰ってきてからやばいかも。」
「…いいよ。にっしーのことは全部受け止める。」
「あぁ…!…もうダメっ!」
「へっ?」
「…可愛すぎてマジで出かけらんなくなる!よし、強制連行だっ!行くぞっ!」
にっしーはいきなり私の手を取って家を飛び出した。
「にっしー!」
「何?」
「鍵閉めないと…笑」
「わり…笑」
周りを見えなくさせてるのが自分だと思うとなんだか嬉しくて。
ニヤニヤしてしまう。
それから私たちは人には言えない理由で予定よりかなり押して外に繰り出した。
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街に出ると人気がいつもより多い。
さすが日曜日。
にっしーと手を繋ぎながら歩く街はいつもより何倍も楽しい。
「…まぁ、お互い気合入ってたってことで、見せつけますか〜」
「どういうスタンスのデートよ笑」
「あっ!」
「今、デートって言った?」
「そうですけど…」
「みさこ、ちゃんとデートって思ってくれててたんだ笑」
「…悪いですか?」
思い切り、口を膨らませる。
「いや、俺もそのつもりだったからよかったなって思って。」
優しい声と共に、優しい手が頭に乗る。
今日は心臓がもつか不安で仕方がない。
この人を好きになってよかったとそう思った。
それもあの佐藤という最低男に出会わなければ、あの時どん底に落ちてなければ、出会えなかった。
「にっしー。」
「ん?」
「私と出会ってくれて、ありがと。」
「…」
「よし!行こっ!いいギター手に入れるぞ〜」
「ちょっとっ!何今の!!帰ったらマジやばいことになるから覚悟しとけよっ!」
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「うわぁ…」
「すげーだろ笑まっ、俺の店じゃないけど…」
にっしーが連れてきてくれた楽器屋は大きなショッピングモールの中に入っているレトロな店だった。
「いらっしゃ〜い」
明らかに楽器がうまそうな顔をしている店員が笑顔で迎えてくれる。
「お二人さん、何をお探しで?」
「あっ、彼女のギターを…」
「へぇ、彼女さんの方が弾くんだ!」
「いや、2人ともギターやってて、曲を作ったり歌ったりしてたんですけど…」
「ほうほう。」
「ちょっと色々あって私の愛用のギターを紛失してしまいまして…」
あぁ…思い出したら悲しくなってきた。
「…大切にしてたんですね。そのギター」
「はい、路上ライブとか毎日やっててずっと一緒に…」
「大丈夫か?」
「ごめん…笑なんかあのギターのこと思い出したら悲しくなってきちゃって…」
「…これからずっとそばにおいてデビュー目指して本気で頑張りたいって思ってるんです。」
にっしーが店員の方を向き直り、そう言う。
「そうか…久しぶりだよ。こんな本気で音楽に取り組んでる若い人に会ったのはさ。わかんないことあったらなんでも聞いて。」
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にっしーとあぁでもない、こうでもないと言いながら、試奏をし、やっと一本のアコースティックギターを買うことが決まった。
「すみません!このギターで。」
「はいよ〜、いやぁ、2人とも試奏うますぎじゃない?笑」
「ほんとですか?久しぶりに弾いたので自信なかったんですけど…」
「いやいや、よかったよ。彼氏さんも上手いな〜」
「ありがとうございます笑」
久しぶりに自分の音楽を褒められて、すごくいい気分である。
レジでお金を出して、会計を済ませようとすると、ニコッと店員さんが笑いかけてくる。
「?」
「素敵な試奏聴かせてもらったし、応援したいからさ、ちょっとで申し訳ないけど、30パーオフでどうだ?」
「えっ?いいんですか?」
「もちろんだよ。」
お礼を言って買ったばかりのギターがケースに詰め込まれるのを見届ける。
「はい、おまち〜」
「うわっ、久しぶりの感覚…最高!」
背中にギターがある感覚。生き返る気がした。
「みさこめっちゃいい顔してる笑」
「でしょ?笑」
「お二人さん、頑張れよ〜」
「「ありがとうございました!!」
背中の重みが懐かしい。
「めっちゃ嬉しそうだな笑」
「そりゃそうよ〜私の生きがいなんだから笑」
「よかった。喜んでくれて。」
「ありがとう。誘ってくれて。」
周りをチラチラ見てあの服が可愛いだのいろいろやりとりしながら2人で歩いていると、ふとお腹がなる。
「…腹減ったなぁ笑」
「ごめん…代弁してくれて…笑」
「えっ!?」
「えっ、逆に何…?」
「大便!?みさこが…そんなお下品な…」
思考回路がよくわからないが、なぜそんなに打ちひしがれたように見つめてくる…?
ちょっと考えると勘違いされたことに気づく。
全く男子の頭はみんなこうなのだろうか。
「流石ににっしーでもは?なんですけどっ!私がそんなこと口に出すと思ってる時点で悲しんだけどっ!」
「いや、ごめんっ!ついノリで…笑」
ちょっと傷ついたが、そうやっていじってくれるようになったのも仲良くなった証として心に刻んでおいてやろう。
心が寛大なみさこ様は無言でにっしーの手を引き、フードコートに連行した。
恋したのはあなたの。11 END♡
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久しぶりです!渚です
世の中は3連休だったんでしょうか…なぜ私は先週の日曜日から今日までずっと働いているのでしょうか…笑
仕事を言い訳にしてしまい不甲斐ないです。
投稿がかなり遅くなってしまい、申し訳ありません
それでも書いてる時はニヤニヤしてますからやっぱりたかうのはすごいなぁって思います!笑
次はもしかしたら小説ではなく、呟き的なものを載せてしまうかもしれませんが、気の向いた方はご覧ください!
またお会いしましょう!渚でした!