「これ、知ってる?」

「なに?」

「…」

「…なにさ笑」

「いや…これ…」

電車の中で隣に座ると、意外と距離が近いもんだということに今気づいた。

私のバイト先の最寄り駅からにっしーの家に帰るまでの電車の中。

私が最近ハマっているアーティストのCDジャケットをスマホで見せると、にっしーが画面を覗き込む。

ふとスマホを持つ手に息遣いを感じる。

「これか…うーん知らないかも。」

距離の詰め方がすごく自然で、ギュっと心が締め付けられる。

「…そっか。すごくリズムがいいんだよね〜この人の作る曲。」

「…ふーん」

なんだか不満そうなのはさておき。

自分の好きな曲をにっしーも共有したくて、もう一歩踏み込んでみる。

「聞いてみる?イチオシの曲。」

するとにっしーは何やらポケットや鞄を漁り出す。

「あっ、俺イヤホン持ってねぇ…」

「そっか…あっ、でも私持ってるから貸すよ?」

少しの沈黙。

言ってしまってから、やばい発言だったかもと反省する。

彼女でもないのに。

ガタンゴトンという規則的なリズムが鮮明に聞こえる。

「…じゃあさ、2人で聞こ。」

「えっ?」

私が半ば差し出していたイヤフォンを手に取り、左耳へ入れ込む。

「ん。」

有無を言わせず、差し出された右のイヤフォンを私も入れ込むことになった。

緊張しながら、再生ボタンを押す。

曲が始まると、にっしーは目を閉じていた。

時々、すごく小さい声で、「うん…」とか「あっ、そうくるか…」とつぶやいている。

にっしーも曲を作るから分かるんだろう。

聞き方の観点がやっぱり一般の人とは違うのだ。

私もそういう聴き方をしてしまうから、同じことを感じていると思うと、すごく嬉しくなった。

私も目を閉じる。

イチオシの曲が終わると、私が時間をかけて作ったプレイリストから次の曲が流れる。

いつのまにか私たちは、少しだけ寄り添って同じリズムで頭が揺れていた。

「まもなく〇〇駅。〇〇駅に到着いたします。」

音楽に突然車内放送が割り込んできた。

曲を2人で聴いているとあっという間に時がすぎ、にっしーの家の最寄駅に着いたようだった。

「さんきゅ。あっという間だったな〜。」

「たしかにあっという間だったね笑」

2人でホームに降り立つと、冷たい風が吹く。

「うわっ、寒い…」

「てかみさこ、よく見たらめっちゃ薄着だな…笑」

「なんか急いで出てきたから服間違えたみたい…笑」

「…じゃ、これ着ろよ。」

にっしーが上に羽織っていたウインドブレーカーを脱ぎ、肩に羽織らせてくれる。

「ありがと…」

にっしーの匂いだ。

まだ2日しか一緒にいないのにすごく安心する匂い。

駅から出て、星が出る空を見上げながら家路に着く。

「…迎えにきてくれてありがとね。」

「…気にすんなって。俺が迎えにきたくて、きてんだからさ。」

「…///」

「照れてんの?笑」

私が黙ってしまったから、からかわれる。

「いや、別に〜?笑」

まっ、図星だけど。

歩きながら時々触れる、腕と腕がもどかしい。

いつか手を繋げたらいいな…なんて思いながら、もう一度星空を見上げた。

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「「終わった〜!!」

思えば出会ってから3週間以上が過ぎていた。

なぜなら、怒涛の日々が続いていたからである。

引っ越しの手続きから何やらでてんてこまい。

2人ともバイトは休めないし、特に私はギターを買うためにとにかくバイトをしまくらなければならなかったからだ。

今日は、引っ越し最終日。

全ての荷物の搬入が完了し、晴れて私は正式ににっしーの同居人となった。アパートの前で喜びを噛み締める。

にっしーのバイト先の友達3人が車を出してくれて、なんとか終えたのであった。

「よし!これで終わりだな…」

「わりぃな…本当に。」

「いや、気にすんなって!じゃあ、あとは2人でレイアウト楽しんじゃってくれよなっ☆」

「…日高ちょっと、そのキャラうざいんだけど…笑」

今まで男友達のような存在もいなかったし、私はすごく面白くて笑ってしまう。

「ほら、みさこちゃんの笑顔がこのキャラを承認してるじゃん!てかさ、俺は心から祝福してるわけよ。なぁ?」

「せやで〜。にっしー、今までマジで女の子に興味なかったのに。こーんな可愛らしい子と…」

「泣き真似下手だぞ、與…笑」

なんだか微笑ましい。

「みさこちゃん。」

3人のやりとりを見ていると、今まであまり喋っていなかった末吉さんが私の方に寄ってくる。

「?」

「…西島ってさ、素を見せるのがあんまり得意じゃないやつなんだよ笑だから…こうさ、あいつに自分の思いが届いてないかも〜って思うこともあると思うんだ。だけどさ、ちゃんと話せばわかるやつだから。」

「あっ!しゅーた…お前何みさこに言ってんだ!」

「別に〜笑」

にっしーが私を少し睨む。

「すんごく素敵なこと聞いたよ?笑」

「うわぁ〜、みさこにもはぐらかされた…」

「はいはい、惚気は家でやって〜笑」

日高さんはそう言って2人と共に車に乗り込む。

「じゃっ!またな〜!」

「ほんとありがとな!」

「ありがとうございました!」

車が遠ざかっていき、アパートの前には私たち2人だけ。

「はぁ…あいつら余計なこと…笑」

「手伝ってくれたから、許してあげてよ笑」

「まぁな笑」

「…本当にいい人たちだね。バイト先の仲間っていうか親友じゃない?」

「そうだな…あいつらはいつも支えてくれるからな。俺を。」

そういうにっしーの顔には、すごくやさしい笑顔が浮かんでいた。

「…私もいつかにっしーを支えられる人になりたいな。」

日曜日の昼間だからか、車通りが多い。

それだからか、こんなことが言えたのかもしれない。

普通なら恥ずかしくて言えないのに。

「…もうなってるよ。」

「えっ?」

「いや、なんでもない笑」

「ねぇ、もっかい言ってよ〜笑にっしーの言ったこと聞き取れないこと多いもん。」

「えー笑」

「ねぇ〜、教えてよ。」

「…ごめん。」

「なんで謝んの?」と聞く前に、唇が重なった。

きっと5秒も経ってないのに、スローモーションのように感じた。

「…」

静かに顔が離れる。

「…もうなってるよって言ったんだよ。俺を支えてくれる人に。」

みるみる顔が赤くなっていくのが分かる。

「…腹減ったし、どっか食いに行くか…」

アパートに戻ろうとするにっしーの右腕をとっさに掴んでいた。

「…?」

「…好き。」

「えっ…」

「いや!あのなんでもない!」

「いやいや、誤魔化せないって笑…めっちゃ目合ってたし、バリバリきいちゃったし笑」

「ん〜!」

「…駄々こんねんな笑」

なんか自然な流れで言ってしまった。

「本当は俺からいうべき言葉なんだけど、俺が順番間違えて…あの…キスとかしたから、みさこに言わせる羽目になっちゃったな…めっちゃ嬉しいけどさ…男としてやらかしたって感じ笑」

「…そんなことはないけど…私もなんか言うつもりなかったのにポロッと本音が出ちゃったって言うか…」

ふと目が合う。

「好きだ。みさこ。」

「…!」

「…俺と…こんな俺でよければ付き合ってくれますか…」

大事な時に目を逸らしてしまうにっしーは可愛い。

可愛くて。 

大好きだ。

「大好きです。私も…」

みるみるにっしーの顔に笑顔が浮かんでくる。

「よーしっ!美味しい飯食いに行くか!」

「ちょっと、ダンボール片付けた方がいんじゃない!?」

「大丈夫だって〜」

「…うーん。」

キラキラした目で見られると、断れないじゃない。

「じゃ、行く…?」

「そうこなくっちゃな〜!どこ食べに行くかジャンケンしよーぜ。」

私の夢だけを追いかける人生にまた違った色が加えられて。

人生のどん底だった私がこうして笑えている。

素敵な人と出会えた。そう実感する。

「うん!!」

恋したのはあなたの。9 END♡
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おはようございます!渚ですキメてる

いやぁ…今は電車の中でご時世的に会話できなくなってしまいましたが、こういうのっていいなぁって思うんです。

電車って座ると意外と距離が近くて、いいシチュエーションだなぁってね!!

イヤホンとか自然な流れで、二人で聞いちゃうのはにっしー罪な男ですわ…泣き笑い

最後はお互いに思いを伝えられたと言うことで、ここに美男美女カップル爆誕。

それでは、また次回お会いしましょう!!