それから、数週間が経った。



紫の箱のことも忘れて、仕事に没頭していた。



私の部署から大きな企画のプレゼンをしなくてはならなくて、その作業に追われていたからだ。



「みんな、お疲れさま〜」



定時をとっくにすぎ、うちの部署のメンバー4人しかいない。



本当によく頑張った。メンバー一人ひとりの力があったから、乗り越えられた。



「いやぁ…宇野さんのおかげで、ほんと助かりました…。私途中でどこ読んでるかわかんなくなっちゃって…」



そう話すのは、今年入ったばかりの女の子。



「いいの、いいの笑私も働きはじめた頃、上司の人にそうやって助けてもらったから。」



部長が帰った空間では、新人さんでさえもリラックスして話しかけてくる。



「じゃ、お疲れ様ということで、お先に失礼します!また、来週からよろしくお願いしますね。」



「はい、お疲れ様です。」



早く帰りたそうにしていた私の2歳下の社員は、最近子供が生まれたらしく、風のように消えていった。



「佐藤さん、お子さんと早く会いたいんでしょうね笑」



「そうね笑」



「あ、あの…宇野さん。」



5歳下の後輩。



今まで一言も話さず、私たちを見渡していた。



「ん?」



「あっ、宇野さん、柴田さん!私、今日妹の誕生日なので、そろそろ失礼します!お疲れ様でした!」



何かの空気を察知したかのように、バタバタと荷物を持って、お辞儀をする。そして、佐藤さんと同じように消えていった。



「…き、気をつけて帰ってね!」



柴田くんと一緒に見送る。



「いきなりどうしたんでしょう…」



「櫻田さんって、ちょっと天然なところあるからね笑…突然、妹さんの誕生日思い出したんじゃない?…可愛い笑」



沈黙が流れる。



「あ、あの…」



「あっ、ごめんね。さっき何か言いかけてたけど…」



初めて柴田くんと目があった気がした。



「…俺、実は明後日久しぶりに妹と出かけるんですけど…」



また妹。



柴田くんに妹がいただなんて。しかも、一緒に出かけたりするんだなぁ。



「妹、ファッションにうるさくて、あんま変なの着てると一緒に歩きたくないとか言い出すやつで。で、俺、ファッションとかに疎くて、自信がないんです…」



「…?」



「だから…もしよろしければ、明日一緒に…買い物に行って、服を選んでくれませんか…?」



「えっ…私?」



「あの…宇野さんオシャレだから。同僚も後輩の女性社員もみんな言ってます。宇野さん、オシャレだよねって。」



まぁ、悪い気はしない。



だって、私はファッションが大好きだから。



いつもスーツだから、あまり個性は出せないけど、それでもアクセサリーや小物で楽しんでいる。


スーツもこだわって選んでいるつもりだ。


ファッションは、気分を上げてくれる。


どんなに辛い時でも、大好きな服を着れば、笑顔になる。


ファッションは、人を笑顔にしてくれる、そんなものだから。


一人暮らしの30代の女には、予定もないから、人肌脱いでやるか。


妹さんをぎゃふんと言わせるコーデを組んでやろうじゃないの。


「じゃあ、私で良ければ、手伝うよ。」


「ほんとですか!?あっ…すみません。」


「…柴田くんって、そんな大きい声出るんだね笑」


「…///」


「柴田くんはスタイルもいいし、なんでも似合うと思うから、選ぶの楽しみだなぁ〜、あっ、明日どこで集合する?」


私は荷物を詰め、帰る準備をしながら、問いかける。



「…」



「…柴田くん?」



「あっ、会社の最寄駅に11時ごろでどうでしょうか!おすすめのランチもあるので、一緒に…」


「ほんと!?もっと楽しみ♪」


なんだかいつもよりぎこちない柴田くんと別れ、帰宅した。


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これって、デートになるのだろうか。


もし彼女がいるなら、女と2人で出かけたりしないだろう。


興味もない。そう思ってたけど、自分が当事者になると、ワクワクするものだな。


そう思った。初めての感覚。


コーデを組むなら、柴田くんのスタイルにあう系統を事前に調べていった方が良さそうだ。


そう思った時、ふと紫の箱のことを思い出した。


あの本には基礎的なことがたくさん書いてある。


久しぶりに基礎から見てみてもいいのではないか。見つつ、今のトレンドも携帯で調べる。


うん。それで行こう。


棚の奥から紫の箱を取り出し、読み込んだ本をもう一度開いた。


久しぶりに本読んでみると、やっぱりワクワクする。


もし、仕事でその人に合うようなデザインを考えることができたら、どんなに楽しいだろうか。


もし、ファッションデザイナーになれたら。



「変わりたいなぁ…」



なんて。



いいんだ。私はこのままで。



いつも通り働いて、時々こうしてファッションに関われたらいい。



「…ん?」



私の目がおかしくなっていないのであれば、若干、本の隙間が光っているように見える。



「えっ…」



いや、どんどん光が大きくなっていく。



「まぶしっ…」



目をつぶらなければ、ならないほどだ。



恐る恐る目を開けると、光は消え、足元に本が落ちていた。



「なんだったの…」



本を拾い上げ、前を向く。



「…ぎゃぁぁあああ!!!」



「ちょ…!落ち着いて、怪しいもんじゃないから!ね?」



「えっ、誰!なんでいんの!?ここ私の部屋だよね!?どっかに飛ばされたとかじゃないよね!?」



そこにいたのは、スタイルが良くて、顔が小さくて、いわゆるイケメンと呼ばれる男性だった。



なんで…どこから入ってきたの…



鍵も閉めたし。



「こんばんは。」



「喋った…」



「さっきも喋ってたじゃん笑」



本当に状況が飲み込めない。不審者だとしたらすぐさま通報した方がいい。



「(・ω・)」



「なんですか…その顔…」



「いやぁ、状況が飲み込めていないようだから説明してあげようかと思って。」



「してあげようとかじゃなくて、してくださいよ!勝手に人の家に来といてなんなんですか…」



一つ息を吐き、その男性はゆっくりと話し出した。



「俺の名前は、変化さん。」



心が一瞬でときめいてしまうような、そんな笑顔だった。



それが私と変化さんの出会いだ。



変化さん② おわり

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皆さま、変化さんの正体はもちろんにっしーです笑


にっしー扮する変化さんは、切実にこのビジュアルでお願いしたい!!!


いやぁ…5歳下の後輩も気になりますよね。


宇野ちゃんの周りにこれからどんなことが起きるんでしょうか…


一緒に見守っていきましょう!


それでは、また次回!


渚でした(°▽°)