あの完全なる無視から2週間が経とうとしていた。
何度もアタックしてみたけれど、全て敗北。
目も合わせてくれない。
そんなことをされてるけど、悪い人にはなぜか見えない。
こうなると、人付き合いが恐ろしく苦手なイケメンとしか考えられなくなってくる。
あの見た目で人見知り。私にだけ見せてくれる可愛い笑顔。
そんなんだったら最高だな…とか思いながら過ごしてきた。
無視されてもなんだか不思議と嫌いになれないというか。
ちょっとムカつくけど…
そうやって過ごす中、彼との距離がいきなり縮まる事件が起きるのである…
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今日は研修最終日。
疲れが溜まってきたけど、今日は研修が終わった後、同期全員でボウリングとカラオケに行くことになっている。
それがなんとも楽しみ。
田中くんのことをもっと知りたいっていう裏目的もあるし。
研修が終わると「よっしゃぁ〜!みんな、行くぞ!」という威勢のいい声が響く。
「社員さんに聞こえるから静かに!w」
テンションが高い同僚の佐藤くんが唯一の女子の同僚である伊藤さんに制されている。
同僚は私も含めて、10人。
みんなで会社からボウリング場へ歩いて向かう。
「宇野さんはボウリングとか行くの?」
「いやっ、本当に6年ぶりとかそれくらい!」
「おんなじw」
「私、運動音痴だからみんなに迷惑かけそう…」
「大丈夫だって!楽しくやればいんだよ!」
「伊藤さんは、運動好きそうだもんねw」
「よくわかったね!でもね、私だって本当数年振りとかだから安心して!勢いで行くぞ〜!w」
私の隣を歩くのは伊藤さん。
研修中、いろいろと話をして仲良くなった。
やっぱり同性の同僚というのは有難い存在。
配属される部署は違うけれど、これからもこんな関係を続けていけたらなぁって思う。
で、今日の田中くんはと言えば。
やはり前を歩く男子集団の中心となっていた。
面白くて、人懐っこくて。
人を惹きつけるっていうのはこういうことなんだろう。
ふと振り返った田中くんと目が合う。
「どうしたの?みさこさん。」
「えっ、なんでもないよ!」
「そっかwなんか俺の顔についてるのかと思ったw」
あっ…いけない。
この2週間で田中くんを見つめる癖が出てしまっている!!
だって田中くん…見てるとすごく面白いし、なんかこっちが笑顔になれるからさ…見ちゃうんだよね。
これが終われば、もう会うことは滅多になくなるんだろう。
配属される部署が違うし。
今日がちゃんと話せる最後の日かもしれないね。
みんなの中心で話していながらも、ちゃんと周りが見えている田中くんに、またちょっとだけキュンとしてしまった私であった。
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ボウリング場に着くと、運命のチーム分けが始まる。
「3番の人〜!」
田中くんが3番であることが判明。
祈りながらくじを引くと、まさかの3。
これは運命かもしれない…
「私、3でしたっ!」
「おっ、みさこさん!一緒に優勝目指しましょう!」
あっ、眩しい…眩しい笑顔…
「でも私…本当に運動音痴で…」
「俺も最近やってないんで大丈夫ですよw楽しくやりましょう!」
田中くんがすごく嬉しそうで、なんだか勘違いしてしまいそう。
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初投球はもちろんガーター。
すると、後ろから優しい声がする。
「多分ね、投げる時にちょっと曲がっちゃってんだよな。だからさ、投げる時に変にいろいろ考えないでまっすぐ!ってことだけ考えて投げてみるといいと思うよ!」
「はっ…はい!」
「ほら、みさこさんもう1球!後ろで見守ってるから!」
「まっすぐ…まっすぐ…」
ゆっくりだけど、まっすぐに転がっていくボール。
「おっ!いけるよ、これ!」
「いけますかね…」
田中くんとボールの行く末を見つめる。
「えっ、嘘…」
「2回目でこの成長は、すごいっ!」
「「やったぁ〜!!」」
まさかのストライクである。
そして、どさくさに紛れてハイタッチしてしまった…
「田中くんのおかげだよ〜」
「いやいや、俺もびっくりwよし、俺も負けないように頑張んないと…」
スラっとした後ろ姿。
いかにもストライクを出しそうな雰囲気。
ボールが転がっていく。
「こ、これは!」
まさかのガーターであった。
「あれ?w」
「田中くん!そういうこともあります!次行きましょう!」
「そうだね!次、次っ!w」
この後もお互いの投球を見守り合い、私は幸せな時間を過ごした。
はぁ…こんな人が彼氏だったら…
なんて考え出す始末である。
数時間が経ち、他の人が投げてゲームが終了しようとしている時に、田中くんと出身大学の話になった。
田中くんは、社会福祉を学んできたらしい。
だから人のことを私たちにはない視点で捉える。
今の相手の表情は、声のトーンは、あの行動は何を示しているのか、自分の今発した言葉は相手にどんな影響を与えたか…いつも客観的に考えてしまうと言っていた。
「苦手だなと思う人でも粘り強く関わるといろいろ見えてくるんだよ。良いところも悪いところも。俺は大学で人間そのものを学んだ気がするよ。」
「そうだったんだ…」
「って、何真面目な話しちゃってるんだろw」
「いえいえ!私が聞いたことだから!」
すごく真剣な眼差しも素敵だった。
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「次、カラオケだぞー!」
ゲームが終わった途端に響く声。
「だから声でかいって!w」
なんだか伊藤さんと佐藤くんはいいコンビである。
研修中もそう思っていたけど、このボウリングを通してもっと良いコンビになった気がした。
「みさこさんもカラオケ行くよね?」
「はい!いきますよ。」
「みさこさん、歌うまそう!」
「そう見えますか?嬉しいです…」
田中くんといると幸せな気分になる。
ずっとこのままお話しできたら良いのにな…
隣のイケメンに困ってます!④ End
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ちょっとちょっと〜!
みさこちゃん、田中くんに落ちてってない??w
いい人だもんねぇ…
遅いぞ!にっしー!
早くしないと宇野ちゃんが田中くんに落ちる!w
みんなで呼ぼう…せーのっ!!
にっし〜!!
もう!呑気に笑ってないで早く出てきてよ!ww
次回あたり出てきてほしいものですね…!(他人事w)
それでは、また次回お会いしましょう!