saita 12月号
2人でいると新しい発見がいっぱい。
結婚して世界が広がった気がします
大学時代に女優デビューしてから18年。映画に、ドラマに、舞台に-と幅広く活躍してる鶴田真由さん。
豊かな感性と表現力でさまざまな役を自分のものとし、その実カを見せつけてくれています。
演じることを生業とする鶴田真由という人は女優として、ひとりの女性として、何を考え、どんな暮らしをしているのか興味津々です。
凛としたまなざし、甘くてよく響く、落ち着いた声で、彼女はたくさんおしゃべりしてくれました。
そしてその中には、彼女が女優として、ひとりの女性として煌めいている理由が隠されていたのでした。
「ひとつ、心配なことがあるんですけど…」
撮影の途中、突然、彼女が口を開いた。インタビュー前にまず写真撮影を、と街に繰り出し、ワインショップでのワンショットを終えたあとのことだった。
「さっきワイン屋さんで写真を撮ったということは、あとでワインについていろいろたずねられるのかしら? 私、ワインには詳しくないからどうしようかと思って…」
困惑の色を浮かべたものの、「大丈夫ですよ、特に聞きませんから」と伝えると、「よかった!」と安堵の表情。そして、茶目つけたっぷりの笑顔…。楚楚とした落ち着きのある女性のイメージが強かっただけに、意外な一面を見た気がした。彼女は率直で気さくなかわいらしさをも持ち合わせているようだ。
--- 眠っている細胞を起こしたいという欲求 ---
鶴田真由さん。学生時代にデビューしてから18年。お嬢さまからキャリアウーマン、母親とさまざまな役を演じ分け、実力を見せつけてきた。映画、ドラマ、舞台、CMと活躍の場も幅広い。
「デビュー当時は本当にいろいろな役をいただきました。でも、今は自分が大事にしていることの片鱗を感じられる役、共感できる部分のある役をていねいに演じていきたいと思っているんです」
かつては「3日以上の休みはいらない」と豪語していたほどだという。けれど、現在は何本もの仕事を同時にするのではなく、ひとつ終わると、きちんと充電してから次に入るというサイクルで仕事をしている。
「役者の仕事は、演じる〝その人″がとても大切です。役柄に、その人が背負ってきたもの、過ごしてきた時間など、人生のようなものが出る…。同じ役でも、演じる役者が違えば、まったく違ったものになるでしょう。それは、役の向こうにその人のキャラクターや人生が出てくるからだと思うんです。そういった意味では役者の仕事はアウトプットの作業。出してばかりだとつらくなっちゃいますから、きちんとインプットの作業もして、人生を充実させたいな、と」
インプットの作業とは、たとえばどんなことなのだろうか。
「いろいろな人と会ったり、知りたいことは調べたり…。こうして刺激を受けて、自分のなかの眠っている細胞を起こしたいという欲求があるんです」
鶴田さんにとって、旅もその欲求を叶える手段のひとつ。連続ドラマや映画の撮影が終わると、自分へのごほうびとして、これまでに幾度となく旅をしてきた。アフガニスタンでの旅をまとめた著書(『インシャラ』)もあるほどだ。
旅に出て”何か”を感じる。
その人の人生が役柄に出る。それが役者という仕事だから、私の人生も充実させておきたい
それもまた、私にとっては眠っている細胞をつつくということなんです。一番最近ではボリビアに出かけました。標高の高い、人がほとんど住んでいない山奥でしたが、〝こんな色が自然界にあるの!?‥″と思うほど色彩が豊かで、しかも人間のにおいがしない‥・。"地球ってこんなにキレイな星だったんだ"と感動すると同時に、自分がそこに入れてもらえない疎外感を覚えたりもして…。そんなふうに感じることすべてが旅のおもしろさなんですよね」
訪れる先は、「何かを感じられそうな」場所を直感で選ぶ。
前もって綿密な計画を立てることもほとんどない。彼女の落ち着いた印象からは想像しがたいけれど、意外と無鉄砲なところもあるようだ。
「今日思い立ったら、明日には即チケットを手配してしまうほど(笑)。とはいえ、結婚しているので、そうとばかりもいっていられない。タイミングを見つつ、彼と一緒に旅することもあります。行く場所ですか?夫婦ともにピンと感じた場所に行くこともありますし、私の好きなところに彼をつきあわせることも(笑)」
--- 互いの大事にしている部分を認め合った結婚 ---
鶴田さんが結婚したのは'02年12月。
ダンナさまは新進のアーティスト、中山ダイスケさん。
「結婚してから、自分の意識が大きく変わりましたね。籍を入れた途端、家族感が増したというのかなあ…。昨日まで〝彼氏のお母さん"だった人が、籍を入れると〝お母さん″になるのですから、距離感がまったく違う感じです。去年、私の弟が結婚したんですけど、その相手に対してもそう。"弟の彼女"が〝妹″になる。そう思った瞬間から、彼女との心の距離感が違ってくるんですよ。結婚は当事者だけの問題ではなく、家どうしのものだと実感できますね」
結婚してから「世界が広がった」とも。
「2人で乗り越えなければいけないこと、2人ではぐくむことがたくさんあります。そんなことを学ばされ、新しい発見がいっぱい。2人がうまくやっていくためには、ちょっとした歩み寄りや努力が必要でしょう。インテリアひとつとってもそう。以前は自分が好きなものを選べばよかったけれど、今は2人で話し合って部屋を作っていかなくては…。結婚生活は物理的にも精神的にも、そういうことがたくさんありますよね。それが私にとってはおもしろくもあり、貴重なことでもあるんです」
やさしい微笑みを浮かべながら、じつくりと選ぶようにして言葉を紡ぎ出す。彼女の充実ぶりが伝わってくるようだ。
「たとえば旅。ひとりで行くと、どこまでも自分のペースで突き進めるおもしろさがあります。2人だとそうはいかないけれど、ものの見方、とらえ方が広がるおもしろさがありますよね。同じものを見ても2人が異なる感じ方をすることがたくさんあり、"これって、こんな見方もあるんだ″と世界が広がります。気ままにできない分、別の楽しさも増える。旅に限らず、結婚とは、生活すべてにおいてそういうことかもしれないですね」
こうした結婚生活のなかで、鶴田さん夫妻が尊重し合っていることがある。それは、お互いの仕事。
「お互いに相手の仕事を認め合ったうえで結婚しましたし、今でも、それを尊重しています。ですから、私が撮影に入っていて"今話しかけても無理だな〟と思えるようなときには、彼は私をそっとしておいてくれますし、反対に、彼が個展前でテンションが上がっているときには、私もそうしています。お互いに、奥さんだから、ダンナさんだから、こうしてほしいとは思っていないんですよね。私たちは、夫と妻というよりも、個人対個人。お互いに自立しているというのでしょうか…。それが、夫婦がうまくいっているひとつの秘訣かもしれません」
--- 夫婦で与え合った"いい影響″とは? ---
鶴田さん夫妻はお互いに仕事を待つ身。相手の仕事を尊重し合っているというけれど、もちろん、つねに別々の時間を過ごしているわけでは決してない。
「時間があれば、週末は一緒に過ごすようにしています。興味を引く美術展があれば出かけるし、映画を観に行くこともあるし、いろいろです。最近は、骨董屋さんにもよく2人で出かけます。もちろん、家でのんびりと過ごすことも…。料理など家のことをやるのは好きなんです、私。そういえば、彼は結婚してから食べ物の噂向が変わりました。ちゃんと家でごはんを食べているせいで、最近、ジャンクフードが苦手になったみたいです。これは、私が彼に与えたいい影響ですね(笑)」
もちろん、ダンナさまが鶴田さんに与えた影響も。
「20代の頃の私は焦り、突っ走っていたところがありました。それが30代になってから変わってきた。きっかけは、年齢のせいもあるかもしれませんが、結婚も大きかったと思います。結婚したことで、〝焦ってもしょうがないし、ゆっくり待とう″と落ち着いて構えていられるようになったんです。それは、信頼できる人がそばにいる安心感のせいもあるでしょう。でも、それより何より、タンナさんの力の抜けた感じに影響を受けたような気がします(笑)。彼を見ていて、"あ、力入ってたな、私"と悟らされたのかもしれないです(笑)。今後もムダなカをどんどん抜いて、もっと精神的に自由な自分でありたいと思っています」
「演技の向こうに役者の人生が透けて見える」という彼女。女優・鶴田真由とその向こうにいるひとりの女性、ともにこれからも進化し続けるだろう。彼女の大きな瞳は、揺るぎない芯の強さを表すように輝いていた。