引き続き『近畿の高校入試』国語の勉強法について。p. 38からの7番の要約です。なお、『近畿の高校入試』国語は附属池田中の宿題になっている、「2020年度受験用」です。新刊の「2021年度受験用」ではありません。

 まずは段落ごとの要約。

  1. 学生のレポートに「精心」という字を見出した筆者は衝撃を受けた。
  2.  X(だが)、これは「精神」の誤記であることがすぐにわかる。
  3.  学生のレポートに「無純」の文字を見出したときには、「精心」とは違う意味(単純な誤記とは違う意味)での知的な「地殻変動」の兆候のように思え、しばらく動悸が静まらなかった。
  4. 文脈をたどる限り、学生は「無純」をただしく「矛盾」の意味で使用していた。「むじゅん」という音と、文脈から、「無純」という「当て字」を推理した知的能力はかなり高いといっていい。
  5.  Y(だから)、語義を理解して造語する能力がある学生が「ムジュン」という文字を知らなかったところにある。
  6.  なぜ、「ムジュン」が書けないか。
  7.  本や新聞を読まないからだという人もいる。
  8.  だが、実際には彼らはけっこう文字を読んでいる。
  9.  学生たちが読む「マンガ」は絵と文字のハイブリッド・メディアで、膨大な量の文字情報をも発信している。それに、情報誌やファッション誌も文字情報を含んでいる。
  10.  なぜ、文字に浸っていながら、「文字が読めない」のか。
  11.  私の仮説は次の通り。
  12.  彼らが「飛ばし読み」の習慣を過剰に骨肉化させたから。
  13.  人間の知性には、自分にとって意味のあるものだけを選択的に拾ってゆく「飛ばし読み」機能が備わっている。
  14.  大学生たちの知性には、「分からない文字は飛ばして、読めなくても気にしない」という「物忘れ機能」が初期設定されており、その知的構造はすぐれて「人間的」だ。
  15.  どうして、そうなったのか。
  16.  通常、私たちは、自分程度の知的水準の読者を対象としたメディアで「読めない文字」や「意味の分からない単語」に出会ったら、人に聞いたり、辞書を引いたりして語義を確定しようとする。そのような「意味の欠如」への不快や欠落感に担保されて私たちの語彙は拡大する。
  17.  ところが、当今の若者たちは、そんな場合に「意味の欠如」を埋めようとする意欲がなく、読めない文字があっても気にならない。
  18.  どうしてか。
  19.  実例を挙げて説明する。
  20.  ある音楽情報誌のコラムを引用。
  21. 20.に引用したパラグラフを読んで、理解できた読者は決して多くなかったはずだ。
  22. 20.のような文章ばかりを読み続けた場合、人が文字情報に対してどのような反応をするようになるかは容易に想像がつく。
  23. それは、「意味の分からないことばがあっても、気にしない」という反応だ。
  24. 引用した文章が求めているのは、ノリのよい文章を読んで、気分がよくなることだ。
  25. 単語一つ一つの意味はどうでもいいと書き手が思っている。
  26. 書く側と読む側に共有されているこのような「テクスト=音楽」的な受容態度が、今どきの若者のリテラシーに初期設定としてビルトインされている「飛ばし読み」機能を形成する心理的土壌をなしている。
  27. メッセージの受け手は、メディアが供与する「意味の虫食い部分」について、聞き直したり、意味を知ろうとしたりして逐語的に反応することをみっともないことだと思っている。
  28. いまの若い人たちが目にし、耳にする日本語の文章は多くの「意味不明のことば」を含み、読者視聴者に期待されているのは、その逐語的理解ではなく、文章の持つグルーヴ感やテンションに同調して「乗る」ことなのだ。
  29. 先の学生は、「ムジュン」という文字を読むときはそれを「読み飛ばし」、「むじゅん」という音の語義については、文脈と「ノリ」から推理したのだ。

 結構長い文章ですが、まとめると、こんな感じでしょうか。

 現代の若者たちが接するメディアの文章は、読者に逐語的な理解を求めていない。文章のグルーヴ感やテンションに同調して「乗る」ことのみを期待している。こうしたメディア環境で育った若者たちは、文章中に知らない文字があってもそれを無意味なノイズとして「読み飛ばし」、語義は文脈とノリで推理して済ませてしまう。

「ノリ」や「グルーヴ感」ばかりを求める現代のメディア環境の中で、大学生をはじめとする若者たちは自分の知らないもの、理解できないものを知ったり理解したりする努力をしなくなっている、ぐらいの内容。

 

 みなさんもぜひ自分で要約してみてくださいね。自分で要約してみることの利点は、なんといっても、文章を丁寧に読むようになること。問題を解く上でも大切なことです。また、問題文で筆者が警鐘を鳴らしていますが、分からない言葉は辞書を引きましょう。

 

 たとえば、問五。

傍線部②「『意味の欠如』に反応する不快や欠落感に担保されて私たちの語彙は拡大するのである」とあるが、どういうことか。八〇字以上、一〇〇字以内で答えなさい。

問題文に知らない言葉はありませんか? それこそ「ノリ」で「読み飛ばさ」ないで、辞書を引いてください。

 ここでは「語彙」と「担保」ですかね。国語辞典を引いてみます。ちなみに辞典は『明鏡国語辞典』(三省堂)です。

 まず、「語彙」。

①ある言語体系・地域・分野・作者・作品などで用いられる語の全体。また、それを収録して配列した書物。

②ある人が用いる語の全体。

とあります。ここでは②でしょう。その人が使いこなせる言葉の量、ということですね。

 つぎに「担保」。これが結構難物なんです。

債務者が債務を履行しない場合、その債務の弁済を確保する手段として債権者にあらかじめ提供しておくもの。「家を―に入れる」

辞典の説明自体が結構難しいのですが、借金が返せない時のために差し出すもののことです。質屋でお金を借りる際の「質草」ですね、といっても、質屋なんて、現在ほとんど見かけませんし、皆さんが利用する機会なんて無いと思いますが…。かくいう私も利用したことはありません。

 閑話休題。そうすると、「『意味の欠如』に反応する不快や欠落感に担保されて私たちの語彙は拡大するのである」とはどんな意味でしょうか? 辞書を引くと余計わかりにくくなりましたね。まあ、こんなこともあります。

 実は「担保」は借金が返せなかった際の保証、ということから、「問題が起きないよう準備する」という意味で、更には「確保する」、「保持する」、いろいろな意味で使われているようです。辞書を引きましょう、と書いておいて矛盾するようですが、辞書の意味で考えると、かえって意味が分からなくなることも結構あるんですね。こんな場合は文脈判断です。まぁ、ここが「丁寧に読む」こと、ということで。

 傍線部の前はこんな文章です。

通常、私たちは…中略…自分の「読めない文字」や「意味の分からない単語」に出会った場合、「ぎくり」とする。文脈から推察できない場合は、人に聞いたり、(あとでこっそり)辞書を引いたりして、語義を確定しようとする。そのような「意味の欠如」に反応する不快や欠落感に担保されて私たちの語彙は拡大するのである

『意味の欠如』に反応する不快や欠落感」というのは、意味が分からない言葉に出会った時、「これはどんな意味だろう?」という気持ちですかね。意味が分からないと気持ちよくないし(不快)、どうもしっかり理解できていない、という気持ちが残る(欠落感)。そこで、人に聞いたり、辞書で調べたりして、意味を理解しようとする、ということでしょう。そうすると、ここで「『意味の欠如』に反応する不快や欠落感に担保されて」というのは、「分からない言葉に出会ったらそれが気になって、その言葉の意味を知らないままにしておけないと感じる。そんな気持ちがあるからこそ」ぐらいの意味ではないでしょうか。未知の言葉をそのままにしておけない人は、人に確認したり、辞書を引いたりして言葉の意味を確認しようとする。そんな努力によって、使いこなせる言葉の数(語彙)が増えていくんだよ、ということです。「担保」の本来の意味からずいぶん外れてしまっているようですが、ここは「未知の言葉があれば、意味を確認せずにすませられなくなる、そんな意欲と引き換えでしか語彙力は身につかないんだよ」、ということでこの言葉が選ばれているのでしょうね。で、「最近の若者にはそんな意欲が無いよね」という結論。皆さんはどうですか?

 

 要約するために丁寧に文章をたどっていると、こんな風に、いろいろなことに気付きます。加えて、知らない言葉を辞書で引くようにすれば、語彙力もついて、国語の成績も伸びるはず。また、「この問題は文章の理解を試す良問だな」なんてのも分かってきますよ。問五も、文脈を押さえられているかどうか試す、良い問題ですよね。