来週は期末テストです。中2の国語は、教科書に無い「卒業ホームラン」(重松清)が出題されるようですね。これは東京書籍の国語教科書に載っている文章です。ちなみに附中は教育出版です。

 

 さて、テストに備えて、こんなことを押さえておけば良いのでは、ということについて少々。とはいえ、長文になりますがお付き合いください。

  • ホームランを打つ話でもないのに、なぜ「卒業ホームラン」という題なのか。
  • 視点人物の「徹夫」は最後のところで『ホームベースという言葉を作った誰かさんに「ありがとう」を言いたい気分』になるのですが、それはなぜか。
  • 「徹夫」は娘の「典子」にどんな話をするつもりだと考えられるか。
 このあたりが記述問題で出題されると、少々手ごわいのでは? 「卒業ホームラン」を読んでいない人には何のことか分からないと思いますが、今回は附中の2年生に向けたテストのヒントということで、読んでいることを前提に。
 主要登場人物は
  • 徹夫 父親
  • 佳枝 母親
  • 典子 中学2年生 徹夫・佳枝の娘。 
  • 智   小学6年生 徹夫・佳枝の息子
 ちなみに苗字は「加藤」さんです。さて、智と典子が反対の性格、というか、状態に設定されているのはすぐにわかりますね。
  • 典子 将来への「保証」が無いことで、「何事に対してもやる気をなくして」います。学校でも授業中、上の空の状態で、塾の冬期講習のお金も友達との遊びにつかってしまいます。「来年は受験なんだぞ」と叱責する徹夫に対しては、頑張っても報われるという保証なんかないのに、なぜがんばる必要があるのかとくってかかる。まあ、反抗期です。
  • 智 父親の徹夫が監督を務める少年野球チームに所属しています。1年生からずっとチームにいるのですが、まだ一度も公式試合に出場したことがありません。徹夫のセリフに、「実力の世界だからな」とか、「もうちょっとうまけりゃいい」とあるように、まぁ、一言で言えば、「下手」なんでしょう。でも、智は真面目に努力しています。「他の選手がおざなりに済ませる膝の屈伸運動」も、一人で黙々と「丁寧に、一所懸命に」やります。また、自分はベンチ入りすらできないのに、試合に出場する選手たちには声援を送ります。良いやつなんです。
 まとめると、「報われる保証」が無いと無気力になっている典子と、「報われる保証」が無くても一所懸命に頑張る智、と、正反対です。で、彼らの父親、徹夫はというと、
  • 「負けず嫌いの性格」で、「負けたくないから必死に頑張って」きたが、「報われたこともあったし、報われなかったことも」あった。娘の典子に「頑張る」ことの大切さを諭そうとしているのですが、「保証が無いのに」と言われると、どう返していいかわからない。一方、息子が報われない努力を真面目に、黙々としている理由は理解不能。
典子と智の中間ですね。どちらに対してもどう対応して良いか分からないところのある徹夫が、最後に智から教えられ、典子とも正面から向き合おうと決意する、というのがこの後の展開。
 さて、徹夫が監督を務めるチームは地域の強豪で、これまでの戦績は19勝0敗。今回は20連勝が掛かった大切な試合であるとともに、6年生の智にとっては試合に出る最後のチャンスです。で、結果は、相手チームが強すぎて、0対10の惨敗。一方、智はとうとう小学校の6年間、一度も試合に出られずに終わります。
 試合の前、徹夫は、最後の試合ぐらいは息子を出場させてやりたいという親心と、実力を公正に判断しなければならないという監督としての立場と、どちらをとるかで悩みます。そして、親心を優先して一度は智を補欠としてメンバーに登録するのですが、土壇場で監督としての立場を優先し、智をメンバーから外します。で、惨敗。この試合になら、実力の足りない息子を出していても非難されることはなかったのに…と、一度も息子を試合に出さないまま、つまり、息子の努力に報いてやらないままになってしまったことを、徹夫は悔みます。
 でも、智は徹夫とは違った考えを持っています。試合の後、中学での部活の話になって、徹夫と典子(最後の試合を見に来ていたのです)が中学での部活は「別のスポーツ」にしたらどうかと提案しても、智は「野球部にする」と断言します。その理由は「拍子抜けするほど」シンプル。
 
 「いいよ。だって、僕、野球好きだもん。」
 
努力が報われようが報われまいが、「好き」だから努力する、頑張る。この言葉を聞いた徹夫。
一瞬言葉に詰まった後、徹夫の両肩から、すうっと重みが消えていった。頬が内側から押されるように緩んだ。
 

ここ、問題になりそうですね。「この時の徹夫の心情を〇字以内で説明しなさい」とか。答案を書くとすれば、

徹夫は智の努力に報いてやれなかったことに自責の念を感じていたが、野球が好きだから中学でも野球を続けるという智に、好きであれば報われなくても頑張れるということに気付かされ、救われた気持ちになったから。

ぐらいですかね。これで99文字なので、「百字以内で」の答案。少し長いですかね。でも、これぐらい書かされることはありますよ。ここはかなり重要なシーンで、最後のところで、徹夫が典子にどんな言葉を掛けるつもりなのかを考える際のヒントにもなります。 

 このやりとりの後、徹夫は、誰もいないグラウンドで、智を打席に立たせてやろうと考えます。一度も試合に出ることなく小学校を卒業する息子に対するせめてもの餞。もちろん、ピッチャーは徹夫。「卒業ホームラン」という題からすれば、これで智がホームランなみの打球を放つのか、と思いますが、そんなにベタな展開ではありません。結局ショートフライに終わります。

 (多分野球のルールなんて知らない)佳枝は「ホームラン」と叫び、徹夫もホームランということにして、智を元気づけようとするのですが、そこの場面。

 徹夫も少しためらいながら、右手を頭上で回した。打席できょとんとする智に、ダイヤモンドを一周しろとあごで伝えた。
 だが、智は納得し切らない顔でたたずんだまま、バットを手から離さない。徹夫をじっと見つめ、徹夫もまっすぐに見つめ返してくるのを確かめると、帽子の下で白い歯をのぞかせた。
「お父さん、今のショートフライだよね。」
 来月から中学生になる息子だ
 あと数年のうちに父親の背丈を抜き去るだろう
 徹夫は親指だけ立てた右手を頭上に掲げた。アウト。一打数ノーヒットで、智は小学校を卒業する。

 智は冷静に自分のバッティングを評価しています。その姿に、徹夫は、自分の予想を超えて智が精神的に大きく成長していることに気付くわけです。だから、「ダイヤモンドを一周しろ」と指示していたのを訂正して、公正に「アウト」を宣告。そして「ナイスバッティング」と声を掛けます。智には聞こえなかったようですが。

 さて、ここで最初の問題。ホームランを打つ話でもないのに、なぜ「卒業ホームラン」という題なのか。

 ホームランなんですよ、父親の徹夫にとっては。自分の予想を超えた息子の成長を認識させられた、まさにホームラン級の「ナイスバッティング」だったのですから。徹夫にとっては、息子が精神的に小学校を「卒業」したことを実感させられた、まさに「卒業ホームラン」ということです。

 次に、徹夫が『ホームベースという言葉を作った誰かさんに「ありがとう」を言いたい気分』になる理由。

家─だ。野球とは、家を飛び出すことで始まり、家に帰ってくる回数を競うスポーツなのだ。

ボールを打った選手がホームベースを出発して、また戻ってくる。「ホーム」=「家」という連想から、野球が家族と似ていることに気付いた、ということです。「家を飛び出すことで始まり、家に帰ってくる」とありますが、これは、たとえ将来子供たちが独立しても、自分を頼って子供たちが帰ってきたら、温かく迎え、励まし、支えてやろう、と決意したということでしょうか。独り立ちした子供が戻ってくる、というのはあまりよくないようですが、子供たちに対する、親としての自分の使命を改めて認識しなおした、ということでしょう。子供たちにとって「家族」がどのようなものであるべきか、このことを気付かせてくれたから、「ホームベースという言葉を作った誰かさん」に感謝したくなった、ということでしょうね。

 ただし、現在の徹夫にとっては智も典子も「家を出て」いるわけではないので、ここでは典子と正面から向き合うことを決意した、ということでしょう。

 少し遅れて歩いていた佳枝が、「あ。」と土手のほうを向いて声をあげた。「あなた、ほら、やっぱり来てる。」
 知らん顔をしておいた。
 今なら、何かをあいつに話してやれるかもしれない。納得はしないだろうが、伝えることはできるだろう

「来てる」のはもちろん、典子です。反抗的な態度の典子も実は、父親の徹夫を頼っているわけです。で、最後の問い。「徹夫」は娘の「典子」にどんな話をするつもりだと考えられるか。何を「伝えることはできる」と考えているのでしょう。

 ヒントになるのが、好きだから、報われなくても野球をする、という智の「頑張る理由」。徹夫は、典子に何か興味のあること、やりたいことは無いのか、というようなことを話すつもりなのではないでしょうか。別に勉強でなくてもいい、何か自分が興味を持って、「やりたい」と思っていることはないか、そんなものがあれば、お父さんはできるかぎりの支援はするぞ…、みたいな感じ。もし「八十字程度でまとめなさい」、みたいな問題が出たら、

報われない努力もあるが、好きだから頑張ることもできるということ、好きなものを探してもいいのではないかということ、そんなことなら話せるかもしれないと思っている。

ぐらいの解答かな。

 

 テスト、「頑張って」ください。