阪神大震災で被災した兵庫県西宮市の美容室で働く女性美容師が、東日本大震災の被災者支援のため、毎日1時間、シャンプー代を義援金に充てるボランティアを続けている。一時連絡が取れなくなった仙台市から通う常連客を心配し、何か役立ちたいと思い立った。「店が阪神大震災から立ち直ったのは、多くの人の支援があったから。今度は自分が手助けをしたい」と仕事に励んでいる。
西宮市羽衣町の「アンヌ美容室」に勤める岡久美子さん(26)。店の許可を得て、毎日午後5時から約1時間、洗髪の仕事を無給で引き受け、客が支払う1回千円の代金を全額、日本赤十字社への義援金に充てる。東日本大震災5日後の16日に開始。4月2日まで続ける予定だ。
震災当日の11日は深夜まで店で働き、翌朝、テレビの映像を見て衝撃を受けた。すぐさま気になったのは、30年来の常連客である仙台市の50代女性の安否。西宮市に実家があり、地元を離れても通い続けてくれている。カット後は「きれいなった。写真撮って」と笑顔を見せ、悩みも聞いてくれる大切なお客さんだ。
女性は10日にも来店し、夜には「今度は6月にパーマをあてに行くね」とメールをくれていた。
「どうしていますか?」。震災後、メールを送ったが返信がなかった。「普段会っていた人が、いきなり連絡もとれなくなるなんて…」。不安が膨らみ、押しつぶされそうになった。25日になり、ようやく「心配しないでください」と返信が来た。だが、詳しい状況はわからないままだ。
焦燥感にかられる中、店の田中孝典オーナー(62)らに聞いた阪神大震災の時の話を思い出した。まだ少女だった岡さん自身は被災を免れたが、店は水道が復旧しない中、ドラム缶に水をためて1カ月で再開。従業員を1人も解雇せず、地域の役に立とうと代金は半額にした。
「苦労は絶えなかったが、全国からの支援で街が復興し、店を継続させることができた」。オーナーの言葉を思い出し、「今度は自分が」と“シャンプー奉仕”を思い立った。
仕事の間も仙台の女性のことが気になるが、「今、自分にできること」を考え、笑顔で洗髪に励む。やがて、女性が再訪してくれる日を心待ちにしている。
※この記事の著作権は、Livedoorまたは配信元に帰属します