翔:まず最初に伺いたいんですけれども、作家・太宰治…この魅力を、作家という立場から、お話していただきますでしょうか。
猪:はい。太宰治って人はね…
翔:はい。
猪:そうだなあ…。みんなが右って言ったら、左って言ってね
翔:うーん
猪:左って言ったら、右って言うようなね
翔:うん
猪:あまのじゃくだと思うのね。
翔:はあ…。なるほど。
猪:そうすると、誰でも、思春期の頃に、みんなが同じこと言ってる時に、違うこと言いたくなることあるでしょ?
翔:ありますねぇ…
猪:うん。それはそん時で、1日で過ぎちゃうことなんだけれども。
翔:はい。
猪:それをずーっと徹底的に
翔:うーん
猪:その「違うんだ、俺は!違うんだ、俺は!」って言い続ける
翔:うーん
猪:っていう人間なんだよね。
翔:ただ、その「違うんだ、俺は!違うんだ、俺は」は、エネルギーも必要としますし、また特に大人になってくると同時に、その気持ちを、こう押し潰しながら…大人になっていく…ところも多くの人には、あるわけじゃないですか。
猪:うん。
翔:そこをそのまま、こう「違うんだ、俺は!」の方を突き進めるエネルギーっていうのは、これ…
猪:うん。
翔:どこにあるんですかね。
猪:だからね、太宰治って
翔:はい。
猪:自殺未遂事件を…4回やってる
翔:はい。
猪:それを題材にして書くわけね。
翔:はい。
猪:そしてまたね、自殺未遂事件をやったら、またそれを題材にして書く
翔:うーん
猪:ということは、自分の命を人質にしながら
翔:うん
猪:書くわけね。
翔:うん
猪:で、書いて。いい作品を書いて売れたいと思うのね。
翔:うーん
猪:少しでも早く人に認めてもらいたいんだ。
翔:うーん
猪:そういうことで、命まで人質にしてやるぐらいの、強さを持って
翔:はあ…
猪:いるわけですよ。
翔:はあ…
猪:ただね、もちろん、本当に死ぬっていうところは、どっかに…ちょっとあるわけだよね。
翔:うん、その憧れっていうのは何なんですかね。あ、憧れと言っていいのか、正しいのかもわかんないですけど。
猪:ミュージシャンもね、絵描きも、みんなある部分でアーティストもね、似てるところがあって
翔:はい
猪:ティーンエイジャーの頃ね、どういう格好いい奴になりたいかな…って思ったりすると思うんですよ。わりと。
翔:ありますよねぇ。
猪:うん。で、太宰治は、芥川龍之介に憧れたんだよね。
翔:うーん。
猪:で、芥川龍之介って、あの…昭和2年に自殺しちゃうんですけどね。
翔:はい
猪:その…その時まだ、太宰は…
翔:はい
猪:その…中学生とか、旧制高校から中学生ぐらいかな。そういう時に、あの芥川龍之介が自殺したって、びっくりするわけですよね。
翔:うーん。
猪:で、芥川龍之介って、教科書にも載ってるけど、…すごく格好いいんですよね。髪の毛がね、くちゃくちゃくちゃっとしててね、鼻筋が通って、ちょっと神経質そうなね
翔:うーん
猪:目がキュッとこう、相手を睨みつけてるような感じで
翔:うーん
猪:で、…指を、親指と人差し指をこう、顎にね、かけて…ロダンの考える人みたいな
翔:はい、ちょっと決まったポーズで…はい
猪:で、カメラの…カメラのレンズをぐっとこう、見てるわけですよ。
翔:そうですね
猪:そういうイメージが、青森県の片隅に居た、太宰治もね、そのイメージに憧れて、実際太宰治は、今の芥川のその写真ね、顎に手をあてて、ロダンみたいな
翔:はい
猪:そういう、じっとこう見るのをね、自分で写真撮ってるのよ。
翔:中学生、高校生ぐらいの時に…
猪:うん。そうそう。学生服着てね。
翔:はい
猪:そうすると、その写真の中で、自分は、芥川龍之介になりきっているんだね。
翔:うーん
猪:で、芥川龍之介は自殺する時に…
翔:はい
猪:また、これがね、格好良かったんですよね。言葉が。
翔:うーん
猪:『漠然たる不安』って
翔:はい
猪:言ったわけね。ただ『漠然たる不安』だと。
翔:うん
猪:そうすると、太宰治は…あ、俺もね、ああいう髪くちゃくちゃっとやって、ロダンみたいに手ついて、じっと睨みながらね、『漠然たる不安』と言って自殺すると。それが格好いい生き方なんだ…っていうふうに、刷り込まれるんだね。まずは真似をして、そして、少し売れるところまでは、何とか
翔:うーん
猪:自殺未遂をしながら
翔:うーん
猪:相手の心中した女性が、死んじゃうんだよね。
翔:はい
猪:それはもう、あの、そいつの運命だったんだから、しょうがないんだっていうふうなね、ことが一方で、開き直りがあるんですね。太宰治はね。
翔:うーん
猪:その開き直りのような部分が、だから、常にあって
翔:うん
猪:で、自分は、その弱い人間なんだから
翔:うん
猪:しょうがないんだと
翔:うん
猪:というふうに、また思っちゃっ…思うところがあるわけね。
翔:うーん
猪:その辺がね、太宰治の強さ…なんだよね。