さあ、いよいよ今回は、日本産出のモササウルス類の実物化石標本について書いていきます。

前回も書きましたが、日本はそこそこ多くのモササウルス類の化石が発見されています。

北西太平洋地域(極東)のモササウルス類化石記録は、ほぼ日本の独壇場です。

その中から、日本で新種記載たれた標本や、保存状態の良い標本を紹介します。

タニファサウルス・ミカサエンシス

北海道三笠市立博物館



1976年北海道三笠市で発見された中型のモササウルス類の化石です。

素人目にも分かりやすい形状の頭骨化石で

発見当初は日本初の肉食恐竜の化石かと騒がれたそうです。

エゾミカサリュウと名付けられ、ティラノサウルス類かもしれないと、当時かなり注目されたらしいです。



その後、恐竜の化石では無いとされ、一気に熱が冷めてしまったそうですが

更に後の研究により、珍しいタニファサウルスの新種

タニファサウルス・ミカサエンシスとして記載されました。


タニファサウルス・ミカサエンシスの化石(MCM.M0009)は

三笠市の蝦夷層群鹿島層の後期白亜紀サントン期とカンパニア期の境界付近から発見されました。

その後羽幌川層から、タニファサウルスとされるバラけた頭骨部分の追加標本も見付かっています。

頭頂部に突起が有るのが主な特徴です。

基本的に頭骨部分しか発掘されてませんが、保存率の高い稀少なタニファサウルス属の化石として

また、日本初のモササウルス類の化石としても記念すべき標本です。

2019年の海外の研究者により、種としての独自性が疑わしいとして

タニファサウルスの未確定種、或いは模式種のタニファサウルス・オーウェンイか、タニファサウルス・アンタークティクスのシノニム(つまり同じ種)であるという解析がされましたが

追加標本も含め、既存のタニファサウルスの化石としては、北太平洋地域ではほぼ唯一の

また最大かつ最古の記録となる貴重なモササウルス類の標本です。





フォスフォロサウルス・ポンペテレガンス

北海道むかわ町穂別博物館

フォスフォロサウルス・ポンペテレガンスの化石(HMG-1528)は
2009年にむかわ穂別の函淵層、後期白亜紀マーストリヒト期初頭の地層より発見された推定全長3m程の小型のモササウルス類の標本です。
変形していない頭部の約80%と首の部分の骨(七個の脛椎)、及び二本の肋骨が保存されていました。
吻部(上顎の先端と下顎部分)は失われていますが、ハリサウルス亜科の頭骨標本としては、最良の部類です。
2013年に福岡大学の田上博士、王立ティレル古生物博物館の小西博士(当時)等により、ハリサウルス亜科の新種のモササウルス類(ベルギーのフォスフォロサウルス・オルトゥルエピに次ぐ二種目)として新種記載されました。

このフォスフォロサウルス・ポンペテレガンスの発見は、ハリサウルス亜科としては、カリフォルニアに次いで二例目となり

この化石の発見によりハリサウルス亜科が、北半球のほぼ全域に分布していた事が分かりました。

フォスフォロサウルスの頭骨は、眼窩が大きく侠骨が張り出し、かつ鼻先が低く狭い事から

両眼視覚を獲得していたとされる、現状唯一のモササウルス類です。



記載者の1人である小西博士によると、フォスフォロサウルスはあまり遊泳能力は優れておらず

おそらく夜行性だったと思われるのだそうです。

同じマーストリヒト期の函淵層からはハダカイワシの仲間やイカ類の祖先(多分ロンギペルス・マツモトイの事)の化石が発掘されている事から、フォスフォロサウルスはこれ等を餌としていたと考えられています。





モササウルス・ホベツエンシス

北海道むかわ町穂別博物館



モササウルス・ホベツエンシス(HMG-12)は1982年に、むかわ穂別の函淵層の後期白亜紀マーストリヒト期初頭(ノストセラス・ヘトナイエンゼ帯)の地層より発見されました。


右前肢の関節した鰭部分と肩甲骨に烏口骨の一部と、胴椎と肋骨と単一の歯の化石から

1985年に、日本初のモササウルス属の新種として記載されました。

フォスフォロサウルス・ポンペテレガンスと同じ海域、同じ時代に棲息していた

推定全長5.5m程の小型のモササウルス属と考えられています。

最近の研究によると、モササウルス属では無く、ニュージーランド産出のモササウルス亜科のモアサウルス属と同属なのではないか?

という系統解析もされているらしいです。




モササウルス・プリズマティクス

北海道むかわ穂別博物館



1983年に北海道むかわ穂別の後期白亜紀カンパニア期(層準不詳)の函淵層で発見された

分離した歯と頭骨の一部(脳函)から(HMG-1065)

モササウルス・プリズマティクスとして新種記載されました。

少ない標本ながら、その特徴からモササウルス亜科の種としての独自性は妥当であると見られていますが

今日(こんにち)では、おそらくモササウルス属では無いとの研究もあり

新たにUmikosaurus(ウミコサウルス属)を新設したりする意見もあります。


これとは別に香川県さぬき市の和泉層群の引田層(後期白亜紀カンパニア期の中頃の地層)から、小型のモササウルス類の吻部の化石(KSNHM-F6-2)が見付かっており

かつてはコウリソン属と同定されていましたが

再検討された際に、この標本の歯がモササウルス・プリズマティクスと類似している事が指摘されています。




モササウルス亜科の何か

和歌山県立自然博物館


2006年2月、和歌山県有田川町の外和泉層群の鳥屋城層(後期白亜紀カンパニア期末のパキディスカス・アワジエンシス帯)から、生前の推定全長6mと見られる

尾を除けば、ほぼ完全な中型のモササウルス類の全身骨格化石が発見されました。

この全身骨格は関節が繋がった状態で発見されており

日本国内及び極東地域産出のモササウルス類では最良の標本であり

また世界的に見ても保存率が良好なレベルの全身骨格標本です。



この骨格の基本的な造りはモササウルス亜科ですが

四肢のヒレが極端に長く伸びています。

普通モササウルス類の四肢は頭骨より短いのですが

本標本では頭骨長を超す長さになっています。

また後脚の鰭が前肢の鰭より大きいというのも異例と言えます。

更にこの標本は

脊椎の棘突起は肩の付近で高く、上腕骨の遠位末端部に有る転子

即ち鰭を曲げる為の筋肉の付着部分が強く発達しているという

これまた前例の無い前代未聞の特徴も見られます。

これ等は前肢のヒレを大きく、かつ力強く動かす為の適応であろう

と考えられています。

これ等の特徴から、この標本の種は

モササウルス類の中でも非常に遊泳能力や、水中での機動性の高い種だったのかも知れません。


そして、頭部が比較的小さく眼窩は大きく、華奢な顎に歯は短く、脊椎の極突起が高めという特徴が見られます。
こうした特徴の幾つかはプロトサウルスと似ていて
もしかたらプロトサウルス属に近縁な種なのかも知れません。
詳細な研究による論文発表が待たれます。




以下その他国内のモササウルス類の化石に付いても少々
和歌山県からは他にも橋本市の和泉層群粉河層(マーストリヒト期後半)から歯の化石が見付かっていますも

北海道のむかわ穂別からはティロサウルス属の頭骨と脛椎化石
小平町からはテティサウルス亜科とみられる胴椎と肋骨化石
沼田市からはモササウルス亜科とみられる上下顎骨(北西太平洋地域のモササウルス亜科では最古)
が発掘されています。

岩手県の久慈層群と福島県の双葉層群からは
後期白亜紀サントン期の地層から中型のモササウルス類の歯と椎骨が見付かっています。
首長竜のフタバサウルスと同じ時代なので
当時の海ではピー助とモササウルス類が仲良く(血みどろの死闘を繰り広げ)
泳いでいたのでしょうね。

他には兵庫県の和泉層群の西淡層(カンパニア期末)から椎骨
同和泉層群の北阿万層(マーストリヒト期初頭)からは大型個体の関節した椎骨
淡路島の和泉層群下灘層(マーストリヒト期後期の中頃)からは、目下国内最後の時代のモササウルス類の化石や
モササウルス亜科とみられる関節した尾椎骨の化石や歯等
12点の化石が見付かっています。

大阪府からは、和泉層群の露出する露頭から、断片的な化石が幾つか見付かっていて
泉南市の六尾層(マーストリヒト期前半)からは大型のプログナソドン属(推定復元では国内最大級のモササウルス類個体の化石らしい)の顎の断片
貝塚市(六尾層)からモササウルス属とみられる部分的頭骨と歯や歯骨に、幾つかの椎骨等が見付かっています。

あとは
茨城県の那珂湊層群(カンパニア期)からプロトサウルス属らしき尾椎骨。
熊本県の姫浦層群(サントン期)からはプリオプラテカルプス亜科の歯の化石が見付かっています。


モササウルス類の歯の化石は産出量が多く
市場にも溢れていて、よく安価で売られていたりします。
最も身近な海竜(海生爬虫類)の化石と言えるでしょう。
そんなモササウルス類の化石標本
案外貴方の近隣の自然史博物館にも
部分化石標本が展示されているかも知れませんよ




オマケ
つい最近知ったのですが
東京都の成城学園という所に、モササウルス類の産状全身骨格の実物化石標本が所蔵されてるらしいですね。
なんかテレビ鑑定団で紹介されてたとか
番組の鑑定ではガビアリミムスに似ているという事で
おそらく2020年に新種記載されたモロッコ産出の
プリオプラテカルプス亜科のガビアリミムス・アルマグリベンシスに似ているのだと思われます。
他には何も分からないので
この標本が成城学園の杉の森館内ギャラリーに展示されているのかどうかも
知りません。