今回もラプトル達についてつらつらと


鳥は恐竜である。

この科学的事実は一般にはまだまだ浸透していないようですが

もっと的確に言うと

鳥は恐竜の子孫(派生生物群)では無く、恐竜という生物そのものなのです。

古脊椎動物学的には、鳥と恐竜を生物群として隔てる程の差など

もう何も無いのです。

ですので、最近の古生物学や恐竜学の世界では

恐竜の事を、非鳥類型恐竜などと言ったりします。

勿論中生代の恐竜と現代の鳥類(新鳥類)には幾つもの違いが有ります。

しかし、化石記録となって残る進化の形態(ミッシングリンク)を遡って行くと

(古鳥類とアヴィアラ類恐竜の)生物群としての境界はもう無いに等しく

翼竜や魚竜と恐竜の様に、(もしくはトカゲとワニとカメの様に)生物の分類として分ける意味は既に無くなっているのです。

即ち、我々が学校で学んだ鳥綱という分類は、自然分類では無く

現在の生物の形態をもとに仕分けただけの、人為分類でしか無かったのです。



この話は詳しくすると長くなるので、ここら辺で止めときます。



小型の獣脚類恐竜と鳥の骨格はよく似ている。

この事は一部の19世紀の生物学者や博物学者でも気付いていた事です。

その事に最も踏み込んだ仮説を提唱したのは

19世紀のイギリスの生物学者であるトマス・ハクスリーでした。

彼はジュラシックシリーズにも登場する小型獣脚類の

コンプソグナトスと始祖鳥の骨格が非常に似ている事に気付き

1870年に世界で初めて鳥は恐竜から分岐進化したという仮説を提唱しました。

トマス・ハクスリーは、進化論を提唱した

かのダーウィン(の進化論)の賛同者であり、あまり表舞台に出てこないダーウィンに代わり

進化論(自然選択説)の正しさを当時の学会で熱弁した論客でもありました。

付いたあだ名はダーウィンのブルドック(番犬)



彼の仮説は(間違いもありましたが)至極的確で正しい学説でした。

しかし、当時の欧州世界ではアブラハムの宗教(主にキリスト教)の創造論が真理である。

という考え方が支配的でした。

更に生物がある程度進化する事を認めている学者達からも異論が唱えられました。(彼等も鳥類が爬虫類から進化した事自体は認めていた)

ですので、ハクスリーの先鋭的な仮説は否定され、そして忘れられていきました。


その後時代は移り1970年代

ジョン・オストロムのデイノニクスの研究報告を切っ掛けに

この鳥は恐竜から分岐進化したという仮説が見直される事になりました。

所謂恐竜ルネッサンスという恐竜学の革命です。

この科学的で的確な仮説が復活する迄、既に100年という年月が不毛に過ぎていました。

しかし、当時のオストロム自身は、恐竜から鳥が進化した生物とは考えてはおらず、鳥と恐竜が共通の祖形生物から進化したという捉え方をしていました。

つまり恐竜と鳥は姉妹群となる生物群であるという結論でした。

(オストロムが鳥と恐竜の系統関係を見直し始めたのは80年代後半になってから)


さっきから話がラプトルと関係無いじゃん。

という声が聞こえてきそうなので

この話はもう止めときます。



ドロマエオサウルス類の話に戻りましょう。

前のブログで、ドロマエオサウルス類は鳥類に近縁なデイノニコサウルス類の一部という話をしましたが

映画ジュラシックシリーズでも第1作からラプトル達と鳥の関係は

僅かながら言及されています。

これは原作者のクライトンが、恐竜ルネッサンスの中心人物の1人であった

ロバート・バッカーに取材した事

更に同じ考え方をしていたジョン・ホーナー、フィリップ・カリー、グレゴリー・ポール

そしてオストロムといった恐竜学者の著書を参考にしていたり、アドバイザーとしていたからです。


しかし、一般の人達は断片的なネットソースに、映画のイメージを補完して

情報を混同し記憶するものらしく

ヴェロキラプトルが鳥の祖先であるとかの

脳内理論を独自に組み立てて、それが最新の学説であると理解し、記憶したりします。

ですがこれは間違いです。

かつてドロマエオサウルス類から鳥が分岐進化した。

と言っていた恐竜学者も僅かにはいましたが

現在の恐竜学では否定されています。

現在の主流派の考え方は、鳥はパラヴェス(或いはエウマニラプトラ)のクレードの基盤的な生物から分岐進化した。

というものです。

もっと突っ込んだ仮説では

トロオドン類が最も鳥類に近縁であるという考え方で

基盤的なトロオドン類(例えばアンキオルニスに近縁な種)から鳥類は分岐進化したという見方をしています。


つまり、ヴェロキラプトルは始祖鳥の直系の先祖だとか

ドロマエオサウルス類から鳥が分岐進化した。

なんてネットソース(系統図とかも)を見かけたら

それはネットの中にしか存在しない誤った情報でしかないのです。


最近はトロオドン類と鳥類を姉妹群とし

デイノニコサウルス類なんて側系統群はもう解体された。

という考え方が優勢みたいです。

つまりドロマエオサウルス類と、アヴェラプトラ(トロオドン類及びアヴィアラ類を単系統群とする。その定義は、マニラプトラの内、ドロマエオサウルスよりイエスズメ寄りに、最新の共通祖先を持つグループ)

が姉妹群という考え方ですね。


そもそもの話ですが、始祖鳥はジュラ期末の生物であり

最初の古鳥類の化石記録(シノルニス等)は、前期白亜紀のヴァランジュ期の地層から見付かっています。

後期白亜紀のヴェロキラプトルや、同じ前期白亜紀でも後の時代のオーブ期のデイノニクスが鳥類の祖先になど成るわけが無いのですが

イメージで物事を理解する(した気になる)人達は、そういう基礎的な知識はほぼ持ち合わせてはいません。

なのにネットソースを脳内理論で補完した珍説を拡散する事だけは、何故かとても熱心で

誤ったネットソースばかり多く広めるので、困ったものです。

例えば、最新の説によると恐竜は爬虫類では無くて鳥類だったというのだ。

とか吹聴する人も居ますが

そんなわけ無いでしょ(笑)

鳥は恐竜ですが、恐竜が鳥になったわけではありません。


ミクロラプトルとかの羽毛恐竜というのが恐竜絶滅後に、鳥類に進化したんじゃ無いの?

と思っている方々もいると思いますが

これはチンパンジーが人類の祖先と言っているに等しいです。

形質の進化を説明する時に白亜紀の有名な羽毛恐竜を例として上げますが

これは生物の漸次進化の軌跡を表しているわけではありません。



まあつまり、何が言いたいかと言うと

映画のラプトル達が鳥の祖先とかいうのは誤ったイメージで、そうでは無いという事です。

正しくは同じ祖先を持つ親戚筋ですね。




次に誤ったイメージとして浸透しているのは

ラプトル達の知能は、類人猿や鯨類並みか、それ以上である。

でしょうね。


恐竜の知能はどれ程に進化していて、知性と呼べるだけのものがあったのだろうか?

旧来の爬虫類のイメージを覆した恐竜という生物群

彼等は現在の鳥類(の中でも知能が高いとされるヨウムやハシブトカラス)並みの知能が有ったのだろうか?

恐竜が哺乳類の様な高い代謝率を持つ内温生の温血生物だったとしたなら、知能も哺乳類の様に進化したりはしなかったのか?

恐竜ルネッサンス以降、このような疑問を持ち始めた恐竜学者も現れました。


先ず最初に考えられたのは、恐竜は群れとして行動をしたのか?

つまり恐竜の社会行動の程度はどのくらいのレベルだったのだろうか?

という事でした。



鳥を除いた現生生物で最も恐竜に近縁なのは、恐竜と同じ主竜類の爬虫類であるワニ類です。

ワニというと多くの人達は、大きいトカゲの1種くらいに思っていますが

実はワニ類というのは爬虫類の中では、高い社会的行動を行う生物なのです。


彼等は普段はトカゲやヤモリの様に爬う様式で移動しますが

実は早く移動する時は、哺乳類の様に四肢を真っ直ぐに伸ばして歩行する事も出きるのです。

場合によっては時速40キロ位のスピードでギャロップ疾走したりもします。

またそれ程統率が取れた行動をするわけではありませんが

一部のワニ類が、まるで役割分担をしている様な狩りを行う姿が

何度も確認されています。


またワニは抱卵したりはしませんが

多くのワニ類は腐葉土等を集めて、その中に卵を産み

発行熱を孵化に利用するという事をします。

更にガビアルなどのワニ類は、孵化した子ワニにしばらくの間付き添い

(最長で約5年間も行動を共にしたという観察記録もあるそうな)

子育て行動を行います。(子ワニ達を水辺に連れていくとか)

そして子ワニは危険を察知すると、特殊な発声で信号を出します。

すると近くに居る成体のワニ達(親ワニ以外も)が一斉に集まって来ます。

それと僅かながら、親ワニが子ワニに餌を与える姿も目撃されています。



また、動物園のワニの飼育員の証言によると

幼い頃から動物園で飼われたワニは

飼育員の見分けが付く(個体識別が出来る)そうです。

そして稀にですが、まるで此方の意思を理解しているかのような行動をとる事があるそうです。

これ等の事実は、ワニがある程度の群れ行動を行っていると言えるでしょう。

つまり、彼等ワニ類は彼等なりのコミュニケーション(意志疎通)能力と

学習能力を持ち、一定レベルの社会行動が可能な生物だという事です。


だからと言って、恐竜も社会行動を行っていたというのは

飛躍した理論だろうと思われるかも知れませんが

鳥とワニという恐竜に近縁な生物が、ある程度の社会行動を行っているなら

一部の恐竜にも、その様な能力が有ったというのは

系統ブラケッティング法の考え方としては、妥当かと思われます。



さて、オストロムが発見したデイノニクスの化石は

不完全な大小3~4体のものと見られる化石が

鳥脚類のテノントサウルスの化石1体とともに見付かりました。

オストロムは、これはデイノニクスが集団で狩りを行ったもの

という仮説を立てました。




余談ですが

映画ジュラシック・ワールドでは、4頭のラプトル姉妹(ブルー達)が登場しました。

これはオストロムの発見した4頭のデイノニクスへのオマージュ的なものとも言われています。

映画ではラプトル姉妹は、ブルー(或いはオーウェンの指示)を中心に統率の取れた行動をしていましたが…




科学の学説には反証が付きものです。

ある反証は、これはテノントサウルスの死体に数体のデイノニクスが集まり

死肉を漁っていただけだろうと主張しました。

しかしデイノニクスの骨には、踏み潰された跡がありました。

これは生きたテノントサウルスにデイノニクスが襲い掛かったが

返り討ちにあってしまった間接的な証拠であると反論出来ました。


しかし、別の反証では、生きたテノントサウルスにデイノニクスが襲い掛かったとしても、それがデイノニクスが統率の取れた群れによる狩猟行為である証拠にはならない。

単に1頭のデイノニクスの爪や牙による傷から出血した

テノントサウルスの血の匂いに誘われたその他のデイノニクスが

サメの様に群がっただけなのでは無いのか?

と主張しました。

これには特に明確な反論は出来ません。

そうかも知れないし、そうでは無いかも知れない。

というくらいの事しか言えません。



更なる検証には、別なアプローチが必要な様です。

彼等の脳の機能は実際にはどれ程だったのでしょう?

次に研究者達はそれを探れないかと考えました。



続きます。



















1990年のオストロムによる総説

"The Dinosauria"に寄稿されたDromaeosauridaeによると

ドロマエオサウルス科とは

細長い翼状骨と三方に尖った深く抉られた形状の外翼状骨

大小三個有る前眼窩窓の一部、もしくは全てをその中に含む大きく深い顎骨

前肢は縮小傾向が無く、大きな爪と長い指骨を持つ